未来と向き合い、健やかに老いる
3月2日(日)、東京神田の学士会館210号室で第7回シンポジウムが開催され、医療従事者、研究者の方々に加え、
メディア、企業、さらに学生、一般の方々など120名を超える方々にも参加いただき、熱心な討議がなされました。
第1部では、まず慶応義塾大学環境情報学部・政策メディア研究科の渡辺賢治教授(当機構・理事)より、『本シンポジウムのねらい』について基調講演が行われました。
【基調講演要旨】[講演資料]いま、日本の伝統医学である漢方が改めて注目されている。超高齢社会の到来を見据え、「福祉・医療費をいかに切りつめるか」という縮小均衡的な議論がしばしばなされている。
今の医療においては、いくつもの疾患を抱える高齢者に対して、病気ごとに大量の薬が処方される傾向がみられ、
それが医療費増大の原因にもなっているが、本来、退行性の変化に対しては、「治療」よりも「悪化予防」の方が重要である。
こうした中、臓器別・疾病別ではなく個々人の心身全体の状態に着目しながら、できる限り「未病」のうちに治す、
という漢方の考え方は非常に有効である。健康を実現するには、薬物療法(狭義の漢方治療)・鍼灸にとどまらず、正しい食事をはじめとする日々の養生も非常に大切である。また、必ずしも経済的に豊かでないキューバにおいて長寿が実現していることが示すように、プライマリー・ケアを重視することも鍵となる。これからは「未病」―「医療」―「介護」をつなぐ仕組み作りが一層重要となるが、漢方はその橋渡しの役割を担うであろう。
漢方は科学的エビデンスが不足していると言われていたが、この点についてはすでに多数の論文が出されてきておりその批判は当たらない。
また、漢方の発展のための国・省庁の支援体制は必ずしも十分ではないが、これを補うべく「漢方産業化推進研究会」が発足し、活動を始めている。
そして、生薬原料の不足や輸入品の品質劣化の問題は深刻であるが、若干の補助金を投入さえすれば国産化を進めることは可能であることから、
早期にそれを実現すべきである。
次に、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの井元清哉・准教授からの基調講演『個別化医療時代の漢方』がありました。
【基調講演要旨】[[講演資料]]
専門医でなくても漢方の診断である『証』をかなりの精度で予測できる『自動問診システム』を開発した。これは、@約200項目の問診データを入力することにより、患者のA『証』及びB西洋医学における病名、そしてC漢方薬の処方を導き出すものである。
「@問診データとA『証』との関係」、「@問診データとB西洋病名の診断との関係」を、それぞれ数学的に解析してみると、後者が「線形」変換が可能な関係性であるのに対して、前者は自然現象においてもしばしばみられる「非線形」の関係にあることが明らかになった。ここでも、人の状態を総合的に診ることを重視する漢方の特徴があらわれているといえる。
【パネルディスカッション】
第2部では、下記のパネリストからそれぞれショート・プレゼンテーションがなされたのち、パネル・ディスカッションがおこなわれました。
ショート・プレゼンテーションでは、@漢方や薬草栽培の研究や生薬供給のためのモデル事業を奈良県主導で進めている事例(吉岡氏)、 A「未病を治す」という漢方的な思想と最先端医療・技術の活用とを融合させ、県民の健康長寿と産業振興を同時に実現しようとする神奈川県の政策パッケージ(首藤氏)、 B漢方関連の情報を一般市民・患者に適切に伝えるホームページの設立(増田氏)、 C非漢方ユーザにとっても身近な問題解決に役立つ情報提供(薬膳レシピや簡易な『証』の診断等)を行うウェブサイトの展開(葉山氏)、 D薬剤メーカーと生薬原料生産者とのマッチング等、農水省による国内生薬原料栽培の支援策(白井氏)等、について紹介がありました。
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「未来志向の漢方・奈良県の取り組み」 吉岡章氏(奈良県立医科大学 学長) [講演資料 |
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「世界へ発信する神奈川モデル ヘルスケア・ニューフロンティア構想」 首藤健治氏(神奈川県・理事) |
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「漢方への期待 国民の目線から」 増田美佳氏(NPOみんなの漢方・理事長) [講演資料 |
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「ヘルスケアとしての漢方」 葉山茂一氏(漢方デスク株式会社) [講演資料 |
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「薬用作物に関する農林水産省の取り組み」 白井正人氏(農林水産省生産局農産部地域作物課・地域対策官) [講演資料 |
また、パネル・ディスカッションでは、@医療従事者(供給)側の目線ではなく、患者・現場主体の視点でこれからの医療を確立していくことが必要であるが、 A現実には国民全体の医療リテラシーや自分自身の健康管理への関心はまだ十分高いとはいえないこと、 Bそうした中、漢方の考え方を広く取り込みながら、医療情報を活用した早めの治療や、健康管理に関する正しい情報提供をしていくことが重要であること等、 意見交換が活発に行われました。また、慶応大学渡辺研究室からは、薬膳メニューの開発と同メニューの学内食堂・神奈川県庁への提供についての紹介がありました。
シンポジウムの開催につきましては、会員の皆さま並びに協賛いただきました法人の皆さまにはたいへんなご支援を賜り、 厚く御礼申し上げます。今回のシンポジウムでの議論が契機となり、当機構の活動にいっそうのご協力をいただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
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