女性 必見!「キズの治療で人生変わる!!」 『湿潤治療』きれいなキズの治し方 〜将来の心のキズまで治せる・・・
【講師】望月 吉彦先生 (医療法人社団エミリオ森口芝浦スリーワンクリニック 院長)
「湿潤治療」は、外傷、熱傷などに「キズ口を消毒しない、キズ口を乾かさない」新しい治療法として注目されています。 「痛くない」、「早く治る」、「傷痕がほとんど残らない」、「費用が、あまりかからない」、日本だけで受けられる治療です。
これまでの「消毒してガーゼをあてる治療方法」とはどう違うのか。「湿潤治療」について、その歴史、科学的根拠と優位性、 そして具体的な治療例が紹介されました。身体的、精神的にも負担の医少ない、このすぐれた治療方法が、一刻も早くゆきわたることが望まれます。
当日は、医療関係、保育などに携わる方々など、40名ほどの参加者があり、皆さんからは今回のセミナーについて、 「大いに役にたった」と多くの手ごたえのあるご意見をいただきました。いくつかご紹介します。
【講演要旨】 【講演資料はこちら】
私は3年前まで、心臓血管手術を専門とした外科医でした。同時に「ケガをしたら、湿潤治療を」と言い続けていました。自分でこの治療を行うようになってから、10年が経ちます。
2015年5月には縁があり、ブラジルで湿潤治療の講演と実技指導を行いました。ブラジル老年医学会の副会長が来日中に大ヤケドを負い、救急搬送された先の病院で旧来の「消毒と軟膏の処置」を受け、痛いうえに入浴も禁止され難渋していたところ、私と以前「湿潤治療」について話していたのを思い出し、当院に来院しました。両側大腿前面のU度の熱傷でした。ガーゼを取り、軟膏を洗い流し、湿潤治療材料を患部に当てたところ、痛みは引き、ヤケドもすぐに治りました.彼は帰国後,ブラジルの外科医に尋ねても、誰も「湿潤治療」を知らないという訳で、ブラジルの医師に「湿潤治療」を紹介して下さいと依頼されブラジル老年医学会に招かれたのでした。
「湿潤治療」は、現・練馬光が丘病院の夏井睦(まこと)先生が、1996年に考案されたケガやヤケドなどの画期的治療法です。この治療は日本でしか受けられない治療です。キズは早く治り、費用もあまりかかりません。早期に湿潤治療を始めれば、浅いキズならキズ跡もほとんど残りません(浅いか?深いか?は後述。)。本当ですか?と思われるかもしれません。知っていれば人生が変わるかもしれません。夏井先生にはキズに関する多くの著作があります。中でも『傷はぜったい消毒するな』(光文社新書)は一般の方向けに書かれており、内容もわかりやすく、入手も容易です。是非、ご一読ください。
さて、キズの治り方には、キズ跡がほとんど残らずしかも痛くない「真の治癒」と、キズ跡が残りしかも痛い「偽りの治癒」があると私は思っています。真の治癒は「湿潤治療」でしか得られません。「湿潤治療」はキズを湿潤環境に保つことで、キズを治癒させる方法です。人間の身体はおよそ37兆個の細胞からできています。キズとは、細胞が損傷することだと考えれば話はわかりやすくなると思います。人体には損傷を受けた細胞や死滅した細胞を補おうとする能力が備わっています。
損傷した細胞が元通りになろうとするのがキズの治癒過程です.それは細胞培養を行うことと同じです。キズの治療は言わば細胞培養と同じことをすれば良いのです。
湿潤治療をしていくと、キズグチから白いジュクジュクした液が出てきます。これは膿(うみ)ではありません。この白いジュクジュク液こそ、最高の細胞培養液なのです。細胞培養液に消毒液を振りかけたり,ガーゼを当てたりするでしょうか?両方ともあり得ないですね。あり得ないことをやっているのが、消毒薬とガーゼによる治療です。
私は以前「ヨード系消毒薬」に関する研究をしていました。この研究結果は米国胸部外科協会誌に掲載されました。この時、消毒薬が消毒作用を持っているのはたった15分しか無い事に気づきました。1日の残りの23時間45分は、効いていないのです。
消毒薬をキズグチに塗布すると、キズを治そうとする細胞は死滅します。しかし細菌細胞は完全には死滅しません。それは何故でしょうか? 細菌細胞の外側には細胞壁がありますが、人間の細胞には細胞壁はありません。細菌が地球上に誕生して2億年です。人間の細胞はたかだか700万年です。細菌細胞の方が強いのです。細胞壁のある細菌を殺すには相当強い消毒薬が必要となりますが、それではキズを治す人間の細胞も一緒に死滅してしまいます。
ペニシリンの発見でノーベル賞をもらったフレミングが、1919年「消毒薬は傷の感染予防には無効でかえって感染を助長する」という論文を発表していることを、フレミングの伝記を読んでいる時に気づきました。鶴見歯科大の図書館にこの論文があることがわかり、コピーを送って頂きました。その論文でフレミングは「キズ口は、水だけで洗った方がアルコールや消毒薬を使うより、治癒率が高い」とはっきりと述べています。
しかし、フレミングがこの論文を発表するよりも更に50年前、つまり今から150年前になりますが、英国人外科医リスターは手術器具を消毒することで手術後の感染症が劇的に低下することを発見しました。この時、キズの処置にも消毒が必要であるとリスター先生は記しています。それが現在にいたるまで「キズの処置には消毒が必要」と世界中の医師に刷り込まれてしまったのです。当時の消毒薬は石炭酸というごく弱い(今、使われている消毒薬の1/200程度の殺菌作用)ものです。今では消毒薬としては使われなくなっています。要するにリスター先生が使った石炭酸を使った処置法は石炭酸を消毒薬として使ったのではなく、「キズの洗浄」に使われて,その効果があったのだと思います。
最近の論文でも、キズは水道の水で洗うのが一番早く治るとされています。幸い日本の水道水の質はとても良いので、安心してキズの洗浄に使えます。
次に、感染とバイキンについて考えて見ましょう。皆さんの手を培養すると、さまざまなバイキンがいるのが普通です。人間の身体でバイキンがいないのは腎臓尿路系だけです。皮膚、舌、のど、耳の裏、大腸など何処にでも細菌はいます。細菌がいて身体の平衡は保たれています。必要もないのに,殺菌をしようとすると、このバランスが崩れるので良いことはありません。菌が悪さをするのが感染で、細菌がいることと感染とは別のことです。このことをよく肝に銘じて下さい。
続いて、キズを乾かすことを考えてみましょう。ガーゼでキズを乾かすのは、百害あって一利なしです。乾燥するとキズ口を治す細胞は死滅します。乾燥させて良いことはありません。
さらに、キズの痛みについて考えてみます。キズができると、神経終末が露出します。この露出した神経終末を乾かしたり、消毒したりすると痛みが生じます。先ほどの白いジュクジュク液があると神経終末は保護されるので痛みが少なくなります。当たり前の話ですが、ガーゼを当てると乾いてキズにくっつきます。これをはがす時に神経終末も損傷を受けるので、猛烈な痛みを伴います。
ヤケド、擦りキズ、褥瘡など、キズの原因はさまざまですが、治療はほぼ同じようにすれば良いのです。つまり細胞培養と同じようなことをすれば良いのです。 それが湿潤治療です。この治療の流れは簡単です。 @ 傷口を水道水で洗浄 A キズに異物(砂やゴミ)がある時はそれを除去します B ワセリンを塗布した被覆材(ラップ)で傷を覆い C 毎日、創を洗浄して被覆材を交換しましょう これでおしまいです。 (注:ワセリンは1872年アメリカで発明された乾燥を防ぐ火傷の治療薬です) ワセリンがなければラップだけでも良いです。 必要に応じて、医師の処置として膿を出したり、既に感染があったり,痛みがあれば、抗生剤や鎮痛剤を処方します。
今、様々な機能をもった治療材料が出ています。それぞれの特性を理解して使用すればよろしいかと思います。
治療材料1. ハイドロコロイド被覆材:キズパワーパッドが有名です。ハイドロコロイド被覆材は毎日交換するべきです。
治療材料2. アルギン酸塩被覆材がついた治療材料があります。アルギン酸塩被覆材には強力な止血作用があり、以前は医師しか使用できなかったのですが、 今は夏井先生が開発した「プラスモイストヘモスタパッド」という製品がインターネット販売でも購入できます。これを出血しているキズに当てて、 その上からキズを5分くらい押さえると血が止まります。
治療材料3. 「プラスモイスト」という治療材料があります。傷口に固着しないような材料を用いていますので傷口固着しません 。過剰なジュクジュク液を吸収する作用も持っています。これも夏井先生が考案した治療材料です。
湿潤治療を行っていると様々な質問を受けます.その代表とも言えるのが、「消毒しないと細菌が入るのでは?」という質問です。これまでにお話ししたように、消毒薬の効果は1日15分で感染防止にはなりません。感染予防には感染源となる細菌の隠れ場所を取り除くことが必要です。異物(砂、木片など)、血のかたまり=血腫、傷の中に貯留したリンパ液・浸出液、壊死組織を除去すれば、キズの感染は生じません。キズが感染すると、キズの痛みとは別の痛みが出現します。またキズの周囲は赤くなります。感染が広がると熱が出ることもあります。キズ口についた砂などは、特別な方法で麻酔をして取り除きます。なお、打ち身でできた血腫(特に下肢)には細菌がはいりやすく、また猫や犬など動物の唾液には細菌がたくさんいるため、感染率は高くなるので、こういう場合は特別な注意が必要です。
「かさぶた」についても、よく質問を受けます。「かさぶた」は、血小板、赤血球などが固まったもので、キズが治っていない証拠でもあり、「かさぶた」をはがすと治っていないキズがあらわれます。湿潤治療をすれば、「かさぶた」はできません。
治療例をご紹介しましょう。資料には、人によっては気分が悪くなるものがあるかもしれません。注意してご覧ください。(会場にて、写真で数例の受傷時と治療後を紹介)
教科書には、体表面積25%を超えるヤケドには点滴、40%を超えると致死的とあります。本当でしょうか。湿潤治療をすると、痛みはないから普通に飲食でき、患部を湿潤状態に保つので、水分も漏出しない。過度な点滴は不要、抗生物質も感染の場合は短期で大丈夫です。無目的に抗生物質を使うと耐性菌ができてしまいます。
このような湿潤治療はなぜ普及しないのでしょうか?夏井先生のサイトには、湿潤治療を行っている医師が載っていますが、まだまだ少ないのが現状です。 http://www.wound-treatment.jp/
医師や一般社会の無関心、感染症を起こしたら面倒という医療者の姿勢などが背景にあります。湿潤治療なら、通院は短時日で済みます。 キズの処置は基本的に自分でもできるからです。鎮痛剤や抗生剤も必要ならごく短時日のみ。浅いキズなら短期間の通院で済み、 高額な医療費のかかる植皮もほとんど不要です。
この5月末に来院した40代の女性がいらっしゃいました。カップヌードルのお湯が足にかかり、1週間他院に通院、植皮をすすめられたため、 私のところに相談に来られました。この方、元は某大学病院の皮膚科の看護師さんで、皮膚移植をうけた患者さんのキズ跡を知っていたので, 植皮を受けるのが嫌で当院に相談に来られたのです。結果的に植皮は行わず、一週間ほどで治ってしまいました。植皮は皮膚をメッシュ状にして移植するので、 どうしても見た目に問題があります。一旦移植された皮膚を元に戻すことは出来ません。
皮膚科学会の「熱傷治療ガイドライン」では、2週間を超えて治らないと皮膚移植を検討することになっています。 モデルの女性がキズの深い低温ヤケドで、毎日通院し、激痛のため仕事にも影響、病院を変えても曖昧な説明ばかりで泣かされ、 6か所目に「大した期待もなく」とブログに書かれていますが、私のところにきました。壊死した皮膚を切除して治療し、2か月後には治癒しています。 どういう治療を選ぶか、病院を選ぶかで、大げさに言えば人生が変わります。キズやヤケドで人生が変わってはもったいないと思います。キズやヤケドをおったら、 「湿潤治療」を思い出してください。
もし、傷、火傷等で困った、わからないことがあったら、芝浦スリーワンクリニック 望月まで連絡を下さい。 クリニックの電話番号:03-6779-8181 相談の場合は創部写真をメールで送ってくれると助かります。 メールアドレス:clinic@emilio-moriguchi.or.jp
*現在、芝浦スリーワンクリニックでは、ホームページ上で「ヤケドやキズのホットライン」を開設しています。 こちらから望月先生へ直接相談ができるようになっています。 https://www.emilio-moriguchi.or.jp/inquiry/moist_index.php
【望月先生プロフィール】 昭和58年 鳥取大学医学部卒業 昭和60年 東京慈恵会医科大学附属病院 心臓外科 助手 平成12年 獨協医科大学 外科学胸部 准教授 平成16年 同 教授 平成20年 足利赤十字病院 心臓血管外科部長 平成27年 医療法人社団エミリオ森口 理事長就任、芝浦スリーワンクリニック開設
以上