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事務局ニュース【NO.2014-141】

第27回健康医療ネットワークセミナー開催報告

妊娠がゴールではない不妊治療の本質とは
生殖補助医療で出生する児の健康性向上を目指して

−特に男性不妊(精子)の観点から問題点を検証する−

講師:黒田優佳子氏(東黒田インターナショナルメディカルリプロダクション・院長)

不妊治療に用いられる生殖補助医療技術(ART)によって生まれてくる赤ちゃんは、現在全体の出生数の3%ほどです。 不妊治療は、深刻な少子化傾向にあるわが国の将来を考えるうえで、不可欠な医療になってきました。

不妊に悩む夫婦は、5組に1組と言われ、不妊原因は、男女とも複雑で、デリケートにからみ合っています。これまで、 不妊といえば主として女性側に問題があると思われがちでしたが、その責任の約半数は男性側にもあります。

男性不妊の約90%は、原因不明の精子形成障害(造精機能障害)にあると言われていながら、婦人科においても、泌尿器科においても、 研究、臨床に携わる医師や研究者の絶対数は極めて少なく、ARTにおける精子の選別は、医療者ではなく農学系の学会から認定資格を与えられた技術者 (胚培養士)が行うことが多いのが現状です。

国内ARTの施設は1,000か所ほどあり、とかく授精率や妊娠率を向上させることがとりあげられる風潮にあり、ARTによる出生児の約7割は顕微授精児 (講演概要参照)と言われています。しかしながら、2012年5月、臨床系の学術誌としてトップにランクされるThe New England Journal of Medicineで、 形状や運動能力など外見的な評価のみで選別された精子をつかった顕微授精によるリスクについて、警鐘を鳴らす論文が発表されました。 

不妊治療の真の目標は、生まれてくる赤ちゃんが健やかに育ち、元気な一生を送ることのはずです。臨床精子学の立場から、 黒田先生は自らのクリニックで安全な不妊治療を追究し、研究成果をもとに臨床実績を重ねられてきました。高度な精子選別、 高精度な精子の品質管理など、培われた技術基盤によって、顕微授精にたよらない新しい不妊治療のモデルが提案されています。 従来の手法では、まず採卵手術ありきで、女性側の身体の負担や痛みに加え高額な費用も問題となっていました。精子の準備を優先して採卵に臨めば、 不要な手術が避けられるケースも出てくるはずです。

あくまでも、不妊は結果であり、夫婦ごとに事情は大きく異なります。それぞれの状態に見合った適切な検査と治療の組み立てが重要で、 安全で行き届いたオーダーメイドな治療があってこそ、成果につながるのではないでしょうか。

当日は、医療、企業関係者に加え、学生、マス・メディアの方々など、約40名の参加者がありました。 生殖医療は、ひじょうにデリケートな分野です。今回のセミナーは、黒田先生による男性不妊治療の研究成果と臨床実績などについて、 正確な情報を伝えるための勉強会として、開催されました。

男性不妊の観点から、精子の選別と高いレベルでの質の保全、ARTの安全保証、そしてできるだけ自然妊娠に近いかたちで行われるべき不妊治療法が、 黒田先生によって提唱されています。医学界のみならず一般の人たちにも正しく理解されるには、どのようなアプローチが必要なのか、 大きな課題はありますが、これからの動向がますます期待されます。

講演要旨については、こちらご覧ください。

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