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事務局ニュース【NO.2016-173】

第33回健康医療ネットワークセミナー開催報告

Health care system in Lithuania

【講師】エギディユス・メイルーナス閣下(駐日リトアニア共和国特命全権大使)

2017年1月18日、東京大学医科学研究所総合研究棟で、第33回健康医療ネットワークセミナーを25名の参加者を迎えて、開催しました。

今回は、小児科医から現在は外交官として活躍されている駐日リトアニア共和国特命全権大使、エギディユス・メイルーナス閣下による リトアニアの紹介と医療事情について、英語によるレクチャーです。

続いて、ガリナ・メイルーニエネ夫人から、リトアニアの自然や文化、伝統など、美しい日本語で紹介されました。 さらに、当NPOの事務局長である東京大学医科学研究所宮野悟教授により、 京都大学との共同プロジェクトにおける最先端のゲノム解析ソフトウエア“Genomon”を用いた成人T細胞白血病リンパ腫の治療経緯について、 英語のミニレクチャーが行われました。

【講演要旨】【講演資料はこちら】  

●なぜ医師から外交官に…?

本日は、皆さまとお話しできる機会をいただき、とても光栄に思います。 リトアニアは、北欧にある北海道の80%ほどの面積の小さな国で、気候もほぼ北海道と同じです。 首都はヴィリニュス。人口は300万人、国外で暮らしているリトアニア人が約100万人います。 サンスクリットに語源をもつリトアニア語が公用語で、通貨はユーロ、2009年に、建国1000年のお祝いをしました。 14、15世紀には、欧州最大の国となり、16世紀にはポーランドと同盟関係を結び、これはEUにつながるものと言われています。 このCommonwealth(連邦体制)で、1791年には世界で2番目に古い憲法が制定されました。1795年にロシアの支配下に置かれましたが、 1918年に独立を回復。さらに1940年のソビエトによる支配を経て、1990年に再独立を果たしました。小さな国であっても、 自由をもち続けることの大切さを私たちは痛感しています。民主的な市場経済体制への移行も成果をあげ、現在はEUとNATOのメンバーです。 私がヴィリニュス大学医学部を卒業した1988年当時、独立運動のさなかでした。独立したら新しい国のために働く人が必要になると、初めのうちは医学と政府の仕事と両立できないかと模索しましたが、1992年に外交官になりました。というわけで、医療とヘルスケアの問題は、私の中でも、最重要課題です。 日本では約3%の失業率は、リトアニアでは8%ほど。EUでは社会保障が行き届いている分、働かないことを選択している人もいるかなと思います。人口300万人の国に、大学は22。人口比では、日本とほぼ同じです。若者の80%が英語を話し、50%は2か国以上の外国語が堪能です。 リトアニアの特化した強みとして、ライフサイエンス分野があげられ、中東欧でもっとも発展しています。バイオテクノロジー、薬学関連分野は、毎年22%の成長を遂げ、その80%は海外輸出向けです。40年前には、レーザー産業を立ち上げました。白内障手術に用いられるフェムトセカンドレーザーは、リトアニア製が全世界の10%のシェアを占めており、日本や米国でも利用されています。

●医療費は基本的に無料

リトアニア憲法第53条で保障されているため、国民の医療費は基本的に無料です。医療費は、GDPの6.7%、予防のための費用は同じく1.1%。健康ケア予算は、2003年から2016年の間に2倍になりました。国会で、2025年までの10年間の健康プログラムが決議されています。 医療は、初期/外来診療を中心に、中期/専門総合病院やリハビリセンターなど、後期/専門病院と医療科学センターと3段階に分かれており、27年前にはなかったプライベートの医療機関は今15%です。医学部はヴィリニュス大学とリトアニア健康科学大学という2つの大きな大学に設置されています。 Eヘルスシステムによって、医療機関の受診や検査の予約が可能です。医療レベルは高く、英国などから医療ツーリズムとして、人を呼び込んでいます。 平均寿命は、75歳(2015年、男性約70歳、女性約80歳)で、男女の乖離を2025年までに8歳差まで縮めるのが目標です。高齢化も進展しており、人口の約20%が65歳以上となっています。 死亡原因の57%は心臓や血管の疾病で、つぎにがんの20%、精神疾患と付随する事故や自殺などが9%と続きます。心臓病などの背景として、人口約25%の喫煙率、アルコール摂取量(国民1人当たり年13L)、ジャンクフードや糖分のとり過ぎの食習慣と、運動不足が挙げられており、健康省の大臣は国民を啓発し、予防に注力すると力説しています。人口10万人当たり31人という自殺率を2025年までに、12人に引き下げるのが目標です。 加入義務のある国の健康保険は、健康保険税として、収入の9%(被雇用者3%、雇用者6%負担)。国立健康保険財団が管理し、外来診療、救急処置、年間120日までの長期入院、調剤薬などが、対象です。また、インフルエンザにかかった場合など自宅に往診してもらえます。医療機関の受診回数は1人当たり平均1年あたり約9回。日本の方にしてみれば、それほど多い回数ではないかもしれませんね。

●杉原千畝氏、命のVISA発給

1922年、日本とリトアニアの間に外交関係が樹立されました。 1940年、当時カウナスにあった日本総領事館の杉原千畝副領事が6,000人ものユダヤ人難民に日本の通過VISAを発給、彼らの命を救ったことは、あまりにも有名です。カウナス市の旧総領事館のあったところに、現在杉原博物館が開設しました。カウナスとヴィリニュス両市には杉原さんの名前にあやかった通りがあり、ヴィリニュスにある杉原記念碑の周りには200本の桜が植えられ、5月初めには、リトアニア人もお花見を楽しんでいます。 1991年、両国の外交関係が再び結ばれ、2007年には、天皇皇后両陛下をリトアニアにお迎えしました。 数年前から、医療科学分野で、日本学術振興会(JSPS)、日本医療研究開発機構(AMED)などとの協定をはじめ、緊密な連携をはかっています。 経済協力関係として、近年日本との取引量が拡大しており、アジア諸国の中では中国よりも多い。最大の輸出品はタバコで、医師としては、残念なことですが…。ただ、日本がリトアニアのタバコを買ってくれるということは、品質が優れているからでしょう。日本車はリトアニアでたいへん人気だが、主にヨーロッパで生産された車で、輸入統計には反映されていません。 日本の文化はとても人気があり、3か所の日本庭園、柔道、合気道人口も多く、極真空手のヨーロッパチャンピオンはリトアニアから出ています。主要大学や12の中等教育機関には日本語教育のコースが設置され、リトアニア語による俳句も読まれています。 これからも、両国の理解がお互い深まるよう、努めていきたいと思います。 本日は、お聞きいただき、どうもありがとうございました。(通訳:久宗百合子氏)

【プロフィール】

生年月日:1964年4月14日

出生地:リトアニア共和国ヴィリニュス市

<学歴>

1994-2001年ヴィリニュス大学法学修士
1982-1989年ヴィニュス大学医学部卒業(小児科専門医)

<経歴>

2016 - 駐インドネシア共和国リトアニア共和国特命全権大使(非常駐), 駐マレーシアリトアニア共和国特命全権大使(非常駐)
2015 駐シンガポール共和国リトアニア共和国特命全権大使(非常駐)
2014 駐フィリピン共和国リトアニア共和国特命全権大使(非常駐)駐オーストラリアリトアニア共和国特命全権大使(非常駐) 駐ニュージーランドリトアニア共和国特命全権大使(非常駐)
2013 ASEFリトアニア代表
2012年11月12日 駐日リトアニア共和国特命全権大使
2010―2012 リトアニア共和国外務副大臣
2004―2010 駐ポーランドリトアニア共和国特命全権大使
2003―2004 リトアニア共和国外務省総括監察官
2002―2003 リトアニア共和国大統領外交顧問
1998―2002 リトアニア共和国大統領国家安全保障・外交政策顧問代理
1995―1998 リトアニア共和国外務省中欧課長、政策部長代理
1995 駐ポーランドリトアニア共和国大使館参事官
1993―1994 駐ポーランドリトアニア共和国大使館二等書記官
1992―1995 駐ポーランドリトアニア共和国大使館アタッシェ
1992 リトアニア共和国外務省中欧課一等書記官
1991―1992 リトアニア共和国政府広報部長代理
1989―1990 ヴィリニュス大学医学部手術部門勤務医

<受章歴>

2001年 The Cross of Commander of the Order for Merits to Lithuania

ようこそ、リトアニアへ!

【お話】ガリナ・メイルーニエネ夫人

●歴史と伝統、そして豊かな自然

皆さま、こんばんは。ガリナ・メイルーナスと申します。 リトアニアは小さな国ですが、歴史と伝統があり、豊かな自然に恵まれ、また4つのユスコ世界遺産があります。一つ目は、 首都ヴィリニュス旧市街で、中央・東部ヨーロッパでは、最大規模です。ゴシック、ルネサンス、バロックなどさまざまな建築様式の建物があり、古いものは14世紀に建てられました。夫と私も卒業した、16世紀に建てられた美しいヴィリニュス大学も旧市街にあります。東欧では最古の、美しいキャンパスで学んでいたとき、毎日何かしらすてきな発見があったものです。大学で日本語を学んでいる学生が多く、日本語を話せるガイドはいっぱいいますので、ぜひいらしてください。 98kmに及ぶ半島にあるクルス砂州はとても有名ですが、15世紀ごろは深い森におおわれていました。19世紀に入り森林は砂漠へと化し、 世界的にも珍しい、欧州最大規模の浸食が見られます。砂州周辺の建物は、赤か青でたいへん魅力的で、 ドイツの作家トーマス・マンが住んでいた家もあり、そこで執筆していたそうです。現地の魚の燻製はとてもおいしくて、おすすめです。 ケルナヴェも見どころ満載です。13世紀当時の首都で、戦争にまつわるたくさんの史跡が見られます。古墳のような王墓が散在し、 その埋葬品には歴史的価値があり、考古学者の研究対象となっています。『生ける考古学祭り』と名づけられた祭典では、 毎年伝統的な美しい衣装が見られるでしょう。 スタルティネスという多声音楽があり、20名の合唱なら、メロディは同じでも20の異なる歌詞で歌われます。私も歌ったことがありますが、 とてもむずかしい。隣の人の歌を聞くと、つられてしまうのです。 ユネスコ無形文化財として十字架づくりと、特筆すべき十字架の丘があります。ロシアに対して蜂起した兵士の埋葬を許されなかった家族が、 形見として十字架を立てたのが始まりとされ、ロシアが何回も撤去してもリトアニア人は十字架を持って集まり、 神秘的な祈りの場所となりました。一見の価値があります。

●森の恵みを健康維持に、母から、そして娘へ 国土の30%を占める空気のきれいなリトアニアの森は、リトアニア人の健康維持には欠かせない存在です。家族でのピクニック、 キノコやベリーの収穫、そして、古くから森の恵みであるハーブを薬として利用してきました。深刻な病気でなければ、 たいていハーブを使います。私の母、私自身も母親になってから、ハーブや木の皮といったものを煎じたり、貼ったりして、 身体の不調を手当てしてきました。 リトアニアのリネンは、その品質とデザインですでに日本でも知られています。また、琥珀は、美術工芸品やお土産品がありますけれど、 特別な製法で作られた琥珀ティーもあります。 日本人のように、リトアニア人も古くからある伝統や文化に深い敬意を抱いており、後世に伝えてきました。 ぜひ、リトアニアにいらしてください。 お待ちしています。

以上

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