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事務局ニュース【NO.2016-162】

第30回健康医療ネットワークセミナー開催報告

医療と健康の「当たり前」が変わる!「動脈硬化」から身を守ろう!!

自覚症状もないまま進行し、突然心筋梗塞や脳梗塞など恐ろしい病気を引き起こす「動脈硬化」。 いままでハードルの高かった測定方法が血圧と同時にデータを手軽に得られるようになりました。 血管の状態を知ることができれば多くの病気を防ぐことができるはずです。

今回は「動脈硬化」をテーマに、測定データから健康維持と病気予防につなげるための理論展開と、 画期的な測定器の開発から販売までのストーリーについて、お二人に講演いただきました。 第30回目のセミナーを記念するにふさわしく65名の方が参加され、講演終了後も懇親会で熱心に意見交換が行われました。 動脈硬化の進行を示す血管機能指標については、今後も多くの論文発表が望まれ、 さまざまな疾患との関連が明らかにされていくことが望まれています。また、多くの人の関心をさらに高めるためには、 「血管機能年齢」のようなわかりやすい指標も期待されるところです。 深刻な病気から命を守るためにも一層の研究と幅広いビジネス展開が望まれる分野であることは間違いありません。

「動脈硬化」の評価から予防へ 血管機能指標AVI,APIの臨床有用性評価

【講師】岡本 将輝氏(東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野)

【講演要旨】

東京大学の公衆衛生学教室では、様々に集められたデータに対して統計解析手法を用いて分析することで、 人の健康に関する新しい知見を見出すような研究が行われています。他大学の公衆衛生学教室に比べると、 やや医師の割合が高いことも特徴の一つです。私個人としては病気の予防や個別化医療をキーワードに、 各疾患、特に生活習慣病のリスク因子をマイナーなものも含めて探索し、 それが臨床的に有効であるかどうかを検討するような研究をしております。

さて、動脈硬化とは、血管の壁が硬くなったり、厚くなるなどして、本来の血管の機能が失われる状態のことで、 ヒトが生物である限り生涯向き合うことになる避けられない病態の一つです。無症状のままに進行し、 狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、脳血管疾患などの非常に深刻な転帰をむかえ得ます。 高齢化が進む日本では、3割弱の人が動脈硬化に関連する病気で亡くなるといわれており、 ここでは明らかにされている動脈硬化のリスク因子を念頭に置き、予防や進行抑制、早期の治療介入に結びつけることが欠かせません。 リスク因子としては年齢や性別など基本的には修正不可能なものもありますが、 高血圧、脂質異常、糖尿病、喫煙、肥満など治療や生活習慣の改善でコントロールできるものもあるのです。

実際に動脈硬化の程度を評価する方法は種々あり、医学的なエビデンスの蓄積も進んできています。 一方でこれらの測定には専門知識が必要だったり、測定時間が長い、臥位を要するなど、 日常的な測定を行うには難しい要素がそれぞれありました。 近年登場した新しい血管指標であるAVIとAPIは通常の血圧測定と同等の測定方法をとり、 非常に簡便で短時間に測定でき、日常的な血管機能評価を実現しています。 私たちはこれらの動脈硬化指標としての有効性を確認するため、
@測定の信頼性(再現性)
A横断面での妥当性(他指標やリスク因子との関連)
B時間の概念を加えた縦断面での妥当性(疾病発症との関連)を調査することとしました。
具体的には青森県八戸市に所在する大規模健診機関である八戸西健診プラザに協力をお願いし、 広く健常者における評価を行いました。研究同意を得られた方は定期的な追跡調査を行う、 いわゆるコホート研究にあたります。2014年4月から、20歳以上の男女、平均年齢45.5歳の7284名を対象に開始しました。 ベースラインでの測定では、やはり他のリスク因子や先行する動脈硬化指標とも妥当な関連を示すこと、 測定信頼性も担保されていることなどを明らかにしています。(詳細な結果は医学ジャーナルのBMC Cardiovascular Disordersに 論文として公開され、近日中に無料で閲覧できるようになります) あわせて昨年の国内学会・国際学会で発表した知見についてもご紹介します。
1. フラミンガムリスクスコアという指標を用いて、それぞれの方の冠動脈疾患発症リスクを算出しました。 やはりAVI・APIの値が高くなる(血管機能が低下する)に従って直線的に発症リスクが増加する傾向を示しています。
2. 動脈硬化と呼吸機能の関連にも着目し、健常成人1307名に対して行った研究では、様々な交絡因子を調整しても、 AVI値が高いほど呼吸機能が低くなる興味深い結果を得ています。

ここまでお示ししたように、現時点でAVI・APIは動脈硬化指標としてきわめて妥当かつ有効な結果を示しています。 今後はこれらの指標が、虚血性心疾患や脳血管疾患といった各疾病発症と関連するか、発症予測力を十分に持つかに主眼を置き、 追跡研究を進めます。並行して進行している高齢者コホートにおいても、認知機能との関連を含め、大変興味深い知見を得ており、 私自身もこれら指標の有効性・将来性に強い関心を持っています。ぜひ今後の私たちの研究にもご期待下さい。

サイレントキラー 「動脈硬化」を予防する医療現場から家庭まで!全方位的ビジネス展開について

【講師】斎藤之良氏(株式会社志成データム 代表取締役)

【講演要旨】 【講演資料はこちら】  

2004年に24兆円だったわが国の医療費は、2014年には40兆円に膨らみました。 動脈硬化は、日本における死亡の3割に起因すると言われています。動脈硬化が引き起こすという心臓病や脳卒中など深刻な事態をまねく 病気を予防できれば、医療費の削減にも効果があるはずです。これが、座ったまま2分で二つの血管機能指標と血圧を手軽に同時測定できる 「PASESA」を開発したきっかけです。

30年前初めて血圧計を開発したとき、血管の硬さも測れるはずだという考えはありました。1995年、脈拍の振幅パターンから、 上腕部の血管の硬さを測定する血圧計を製作したものの、測定値のばらつきもあり、思うように売れませんでした。 それまで、販売は大手にお願いしていましたが、しっかりとした動脈硬化指標が得られたら、中小企業から出しても道は拓けるのではと、 本格的に取り組み始めたのです。 2004年から2年間、産業技術総合研究所と、家庭用血圧計を使って、上腕部の血管を測定するAPI値(Arterial Pressure Volume Index) と心臓付近の動脈の硬さを反映するAVI値(Arterial Velocity Pulse Index)を計測できるように、共同研究を行いました。 血管の硬さには、弾性と粘性の2種の概念があります。家庭用血圧計では、上腕部に巻いたカフが膨らんだ後、 ゆるめていく間の脈波の状態で最高血圧と最低血圧を判定し、締めつけた状態のデータは弾性を反映するのですが、 それまで使っていなかった。データを試しに微分してみると、年齢、動脈硬化の進み具合、高血圧などの個人差が如実にあらわれたのです。 このAVIの測定値について、理化学研究所と2008年からスパコン「京」を用いた共同研究によって、人間の循環動態をシミュレーションし、 理論解析しました。2009年、医療機器として薬事申請し、3年後の2012年に「PASESA」の販売を開始しました。最初の年は1台も売れず、 2014年暮れTBSテレビ「夢の扉+」で放映されてから反響が出て、現在約70台販売しております。

動脈硬化には、これまでPWV(脈波伝搬速度)の指標が用いられてきました。1999年の世界保健機構(WHO)の 「血圧のみならず血管そのものを評価する技術が必要である」との提言をうけて、全国に現在2万台普及していますが、 専門の検査技師が必要です。また、横になって、上腕と下肢4か所にカフを巻き、5分間ほど血流を止めて主に血管の硬さを測定するもので、 かなりの負担を強いられます。 「PASESA」は、カフは上腕部1か所だけ、しかも座ったまま測定できるので、簡単に血管の状態を測ることができるのです。 PWVが行き渡ったことにもより、病院のドクターの、血管の動脈硬化の重要性に対する認識も高まってきました。 血管の状態がわかれば重大な病気の発生予防につながるという目的で、「PASESA」を使って、 東大の岡本先生はさまざまな疾患との関係を調査してくださっています。 新潟大学の榛沢先生は新潟中越震地震で発症したエコノミークラス症候群の患者さんを診察した経験から、 東日本大震災後その予防のために、被災地を回っていらっしゃいます。 また、大阪の病院の健康フェアでは「動脈硬化測定」のチラシを配布すると、外来機能が止まるほどの測定希望者が殺到しました。 あるリハビリサロンでは、介護予防として、筋力トレーニングを行うなかで「PASESA」の測定値を示し、 効力がわかると利用者の動機づけになっています。「血圧が高いよ」というより「動脈硬化が進んでいるよ」と言われる方が、 生活習慣改善のきっかけになりやすい。フィットネスでは、1か月の運動で、血管年齢が10歳くらい若返ったという研究例もあります。 2020年の東京オリンピックに向けて観光客の需要が一層高まるタクシー・バス業界では、運転手の高齢化もあり、健康管理の改善は急務です。 今までは、半年から1年毎の検診でリスク判定をしていたのを、毎日または毎週、営業所単位で身体状態をチェックし、 エビデンスのリンクによりビッグデータにも活用できれば、きめ細かく運転手の急病発生に備えることができます。 最近、ドラッグストアでは規制緩和により店頭で自己採血できるようになりましたが、動脈硬化の測定サービスも開始できれば、 その手軽さで病気の予防という観点に役立つのではと考えているところです。このほか、健康食品/サプリメント業界、 保険業界などのヘルスケア分野での成長が見込まれ、また、血管機能指標には認知症マーカーとしての期待も寄せられています。

まずは、学術発表に注力して、臨床研究/急性期医療から予防医療の分野へと展開しているところです。国内では、 50件以上の研究成果が発表されました。「PASESA」の測定値における学術根拠が示されてきており、クリニックや健診市場と並行し、 予防医療へと範囲を拡げ、私たち自らビジネスモデルを創出していこうと思います。さらに、海外への展開に備えて、 台湾のメーカーと現在共同開発を行っているところです。 血管機能の指標を通じて、急性期医療から家庭での健康チェックまで、医療や健康の「当たり前」を少しずつ変えていく気構えで、 新しいビジネスを展開してまいります。 詳細は、講演資料をご覧ください。 ご清聴、ありがとうございました。

以上

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