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事務局ニュース【NO.2015-152】

第3回がん免疫療法の夕べ開催報告

新たな治療薬の速やかな開発を目指して―開発とRegulationの調和―

三重大学大学院医学系研究科遺伝子・免疫細胞治療学講座 教授 影山 慎一先生【講演資料

【講演要旨】  

がん免疫療法には、いろいろなアプローチがあります。2013年Science誌で“Breakthrough of the Year”として、 免疫チェックポイント阻害剤とTCR/(CAR)―T細胞輸注療法が取り上げられました。免疫チェックポイント阻害剤については、次々とニュースが届いています。 日本では、免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブはメラノーマ(悪性黒色腫)の治療薬としてすでに薬事承認されていますが、 肺がんのなかの非小細胞肺がんに効くとわかり、米国とヨーロッパではその治療薬として承認され、さらに腎細胞がんに対しても、米国FDA(食品医薬品局)で最近承認されました。 後者のT細胞輸注療法は、急性リンパ性白血病の治療薬としてひじょうに効果的で、1回の投与で高い効果が出ており、近いうちに承認になる可能性がじゅうぶんあります。

一方、がんワクチンに関しては、少々苦戦しています。ペプチドワクチンは、日本でさかんに開発されているものの、大規模臨床試験での成功例に恵まれていません。 ただ、米国FDAでは、2012年から、“Breakthrough Designation”として、3種のがんワクチンの審査の優先順位が上がっており、このようなシステムで開発の迅速化の土壌ができています。 日本においても、最新の情報に基づいて、がん免疫療法開発のためのガイダンス作成が急務になっているわけです。

私は、がん免疫療法の臨床部門の開発に従事しておりまして、3年前から日本におけるがん免疫療法の開発のガイダンス授業の委託を厚生労働省から委託されております。 オールジャパン体制で、段階的なガイダンスの作成が求められています。

がんに対する免疫応答は多様な細胞と因子の複合的反応で、その特性によって治療法が異なります。
@宿主の免疫応答を介した治療法: がんワクチン、免疫チェックポイント阻害剤
A抗原特異的T細胞応答による治療効果: エフェクター免疫療法、がんワクチン
B標的抗原の多くは自己抗原: がんワクチン、エフェクター免疫療法、免疫チェックポイント阻害剤
C抗原提示、エフェクター細胞および腫瘍組織環境の複合的関与: がんワクチン、エフェクター免疫療法、免疫チェックポイント阻害剤    

臨床的特徴としては、@がんワクチンであれば、投与してから効果が出るまで時間がかかる。抗がん剤であれば、すぐ反応するが、がん免疫療法の場合、 時間のラグがある。もう一つ、効果が持続します。有効性に関しては、反応が長く続く。逆に副作用も長引いてしまう。抗がん剤であれば、その毒性は代謝されて消えます。
AT細胞リンパ球が反応するもので、何が抗原かを認識するものです。何を攻撃目標にするか、その抗原ががん免疫に出ているか、正しく診断しないとなりません。 その抗原が出ているか出ていないか、それはどの程度か。抗原の発現検査、いわゆるコンパニオン診断薬を同時に開発していくことが大切です。
B多くは自己抗原であり、われわれの身体の中では、自己抗原に対して反応しないように教育されている。免疫寛容という抑制機序が働くためです。 応答は弱いが、いったん反応が起きてしまうと、自己免疫反応のような有害事象が出るおそれもあり、評価に際しては、この毒性も無視はできません。
C複合的関与のため、単剤治療の限界を超え、複合的な治療が可能です。

免疫反応を利用した場合のタイム・ラグ、遅発性効果について話しました。抗がん剤の反応は早期に起きるため、がんが早期に悪化すれば、 それは抗がん剤が効いていない、続けているとかえって有害事象がおきるので、そこで薬は中止となる。免疫療法では、免疫が作動するまでの時間、初期の増悪、 つまり病気が悪化したり、免疫のリンパ球の局所浸潤によってかえって増悪ではないががんのサイズが大きくなることが見られます。新しい病変が出た後に、 反応が遅れて出て、結局は良くなることはけっこうあります。一旦悪化したとき、薬の治療を止めるべきか否か、難しい問題です。副作用があまりなければ、 根気よくその治療を続けた方がいいことにもなる。ここは、ひじょうに大きな議論になっています。

irRC(免疫関連反応評価基準 Immune-Related Response Criteria)では、単純に初めからよくなった人と、一旦増悪してよくなった人を比べてみると、 生存率には差がないことがわかった。初めのうち悪くなった患者さんで、最終的に病気がよくなることもじゅうぶんある。メラノーマの患者さんで、 免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブを投与され、Beyond PD(一旦悪化し、治療継続して結局よくなる)が見られる。 抗がん剤の評価基準による評価ではカバーできない症例が出てきます。PD-1抗体のように、切れ味のいい免疫チェックポイント阻害剤では、 通常のRECIST(固形がんの内科的治療判定効果 Response Evaluation Criteria Solid Tumors)で評価できる。irRCでは、頻繁に画像評価が必要なこともあり、検討が必要です。

成功確率の高くなるような開発手法のために、早期の第T相、第U相の臨床試験について、ワーキンググループを作って、「がん免疫療法開発のガイダンス2015  早期臨床試験の考え方 〜安全で効果的な開発を目指して〜」(ガイダンス作成のための検討委員会)で報告書を作成しました。日本では、がんワクチン中心だったが、 加えて、エフェクター細胞療法、免疫チェックポイント阻害剤を開発する場合を対象としています。どのような患者さんを対象にするか、試験中にがんが大きくなったときの考え方、 初期投与量と投与スケジュールと評価項目などについて、第T相試験から、第U相試験では、ある程度有効性を視野にどのような試験デザインがふさわしいか、 詳しくはPMDA(医薬品医療機器総合機構)のHPをご覧ください。 http://www.pmda.go.jp/files/000205614.pdf#page=1&r=s&r=s   

がん免疫療法の早期臨床試験では、アカデミアがシーズを開発し、それを投与してみようというところから始まることも充分ありうる。宿主の免疫応答を介した治療法では、 動物モデルがないため、DLT(投与量規制毒性 Dose Limiting Toxicity)の設定がない場合、用量設定がむずかしい。また、免疫チェックポイント阻害剤では、 がんを小さくする力があるが、がんワクチンでは、生存延長はあっても腫瘍縮小はほとんど見られず、薬が効いているという有効性のエンドポイントの見極めが重要です。 さらに、遅発性の効果は、RECIST基準では、PDになった段階で無効となるが、効果と毒性の持続性を意識して開発に取り組む必要がある。開発途中の妥当性について、 GoまたはNo Goの決定に免疫反応が起こっているか、きっちり見るためには、アジュバント(抗原性増強剤)などの利用も考えられます。    

厚労省の『抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドラインについて』の通知のなかで、留意事項として、「学問の進歩を反映した合理的根拠に基づいたものであれば、 必ずしも示した方法を固守することを求めるものではない」とあり、つねにアップデイトされた情報をもとに開発していく姿勢が求められています。

これまでは、企業中心に臨床試験を行うことが多かったのですが、腫瘍免疫に関しては、アカデミアでの研究によって蓄積された部分も大きい。企業とアカデミアの連携、 バイオマーカーの選択など、アカデミアの研究成果をつかって企業にあるデータを解析して開発していくことも不可欠です。当然PMDAの規制はあるので、つねに話し合い、 調和をとりながら、患者さんや家族からのニーズに応えて、開発の迅速化も必要です。化学療法を上回る力になると、これまでの治療の概念が変わります。 がん免疫療法をファースト・ラインの選択肢として治療することも可能となり、ガイダンスを整備して、がん免疫療法の開発の一助にしたいと考えています。

【影山愼一先生プロフィール】

1981年に三重大学医学部卒業後、主に血液内科医として造血幹細胞移植の臨床をしてきましたが、1998年からは一貫してがん免疫療法の臨床研究を進めています。
これまでがんワクチンとTCR遺伝子導入リンパ球輸注の臨床試験の実施しながら、ワクチン後の免疫反応モニタリング、輸注細胞の体内動態、 これらの臨床効果についての研究を行っています。
2013年から三重大学が厚労省からの委託事業を受けて、日本でのがん免疫療法開発の現状と今後のあり方をまとめて臨床開発ガイダンスを作成する機会に恵まれました。 これまでのところ、早期臨床試験についてのガイダンスをまとめました。現在は後期臨床試験ガイダンス作成に取り組んでいます。
免疫チェックポイント阻害剤の飛躍が著しい中、次々と免疫療法の特性が明らかにされています。これらの理解のもとでの臨床開発戦略が不可欠です。
講演では、効率よく成功に導けるがん免疫療法開発をレギュレーションとどのように協調できるかについて一緒に考えたいと思います。

「アカデミアと企業の連携」―なぜ、そして、どうやって―『なぜアカデミアとの連携が大切なのか?』

山口大学大学院医学系研究科免疫学分野 教授 玉田 耕治先生【講演資料

【講演要旨】  

山口大学の玉田と申します。がん免疫療法というと免疫チェックポイント阻害剤がよく効いていますが、実は免疫チェックポイント分子にはたくさんの種類があります。 抗CTLA-4抗体という成功例があって、さらに抗PD-1、PD‐L1抗体がたいへん有効ですが、これは商店街の福引でいきなり一等賞が出たようなものです。 今後、PD‐1を超えるものが出るのかどうか、難しいところもあります。ただ、良く効いている抗PD-1抗体であっても100%の患者さんには効果はなくて、効くのは、2割から3割です。 今後はいろいろな治療法と組み合わせることで治療効果が高まると考えらます。また、遺伝子改変技術を応用したT細胞療法も有効な治療法と期待されています。

まず最初に、がん免疫療法の新規薬剤開発がどういう時系列で進んでいくのかお話しします。
@創薬シーズの開発:企業の研究からうみ出されることもあるが、特にがん免疫療法では、アカデミアからのものが多い。
APOC(Proof of Concept)の取得:この段階では、in vitroの実験系でも、in vivoの実験系でも、POCできちんとした創薬シーズの確認が重要。
B対象となるがん種の同定
C製剤の最適化:抗体療法や分子標的薬でも重要だが、特に細胞療法の場合は、細胞の性質によって異なるため、どう最適化するか、非常に重要。
DGMP(Good Manufacturing Practice)製造・品質試験
E非臨床安全性試験
FPMDA(医薬品医療機器総合機構)との薬事戦略相談
G臨床試験(医師主導・企業治験)
HリバースTR研究:臨床試験を実施するとさまざまな臨床データが得られる。それを再び研究の方に戻し、その研究をもとにより優れた新薬をつくり、 より優れた投与基準をつくる。がん免疫療法では、きわめて重要です。

では、われわれアカデミアの研究者や医師は、どこで貢献できるのでしょうか。@〜Cの創薬フェーズでは産学連携が有用ですし、G〜Hの臨床開発フェーズでは産学連携はかなり重要です。 まず、創薬フェーズでは、がん免疫療法剤の作用メカニズムや標的分子は多様かつ複雑であり、免疫システムの1つの細胞で説明できるわけではありません。 そのため、基礎的な免疫学研究の知識の積み重ねが特に重要となります。また、がん免疫療法の作用機序の解明により、 どの薬剤をどのようなタイミングで投与するのが適切かの判断材料が得られることもあります。免疫細胞療法における細胞培養や遺伝子改変の技術は、 特にアカデミアでのノウハウの蓄積が優れています。また、知財確保のためには、AMED(日本医療開発機構)からの公的支援は不可欠ですが、資金をもらって論文を書いただけでは不十分で、 特許出願を介して知財をしっかり確保したうえで産学連携にて開発し、ライセンスアウトおよび事業化することが求められています。

臨床開発のフェーズでは、アカデミアにおける臨床試験の実施により、がん免疫療法の特殊性が明らかとなることがあります。免疫チェックポイント阻害剤の臨床効果では、 Beyond PD(病気が進行しても治療継続)での投薬により、投薬開始後一旦大きくなったがんが、ある時点から退縮する症例が認められました。 また、投薬を中止しても残っている腫瘍がそのままの状態で増大しない例もあり、どのような症例でどの時期に投薬を中止してよいのか、アカデミアでの検討が重要と思われます。 またこのことは、非常に高額ながん免疫療法の薬をどのように使用していくのか、医療財政上の問題としても重要です。

がん免疫療法では抗がん剤とは異なるタイプの有害事象が発症するため、アカデミアでの臨床試験による知識の蓄積、共有が重要です。また治療効果の判定基準については、 irRECIST(Immune Related Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)やirRC(Immune Related Response Criteria)のように、 がん免疫療法で起こり得る治療反応に重点をおいた評価基準の検討も重要です。これらのがん免疫療法判定基準はまだまだ確立した概念とは言えませんが、 今後その有用性を検討することが重要です。

産学連携でのリバースTR研究は、特に重要なものです。例えば、どのような患者さんでは、がん免疫療法が効きやすいのか、といったバイオマーカー研究はその代表格です。 より優れたバイオマーカーを確立するためには、IHC(免疫組織染色 Immunohistochemistry)やLiquid Biopsy、NGS(次世代シークエンサー)によるゲノム解析などが重要ですが、 これらはいずれもアカデミアの得意分野です。複数のファクターが複雑に関与していると予想されますが、最適な予測アルゴリズムを確立し、より選択的で効果的な薬の投与計画、副作用の低減など、 患者さんにとって有益なバイオマーカーの同定が求められます。加えて、今後はがん免疫療法がファースト・ラインの治療法として認められることが予想され、 多くの治療法の中からどのような実施順序で治療法を選択するのか、どのような患者さんが対象となりうるのかなど、さらにバイオマーカーの重要性が増していくと思われます。

今後がん免疫療法の治療効果をさらに高めるためには、複合がん免疫療法として、免疫療法同士、あるいは非免疫療法との併用療法を開発していくことが重要です。 しかし、複合がん免疫療法の組み合わせは極めて多岐にわたり、それらを一つ一つ臨床試験で検討することは効率が悪く、莫大な開発費がかかるため非現実的です。 そこでアカデミアにできることとして、例えば免疫チェックポイント阻害剤との併用により相乗的な治療効果が得られる薬剤をマウス実験にて洗い出し、 そのメカニズム解析を進めることが考えられます。それにより、科学的エビデンスに基づいた複合がん免疫療法を重点的に臨床開発していくことが可能となります。 さらに有用な産学連携のモデルとして、単剤では効果誘導が難しい薬剤でも、アカデミアの有する最新のシーズと組み合わせることで有効性が強化される可能性もあります。 承認薬同士の組み合わせにおいても、アカデミアの有するモデル系を利用することでその最適化を目指すことができます。また、臨床効果のみならず、 複合がん免疫療法により起こりうる有害性の推測にもアカデミアの研究モデルが活用できます。

リバースTR研究を効率的に実施するためには、治験プロトコールを作成する時点からアカデミアと企業との密接な連携が求められます。 例えば、リバースTR研究に使用するバイオプシーサンプルに対する患者さんのIC(インフォームド・コンセント)など、プロトコール立案時において綿密なプラニングが必要です。 国際共同治験となると状況はより複雑です。また、リバースTR研究の経済的・社会的課題として、医薬品承認に必要となるデータ以上のものを収集するため、 開発上のリスクとなるようなデータが出現する可能性があること、このようなデータ収集にかかる費用を誰が負担するのか、リバースTR研究は製薬企業にとって十分なリターンを期待できる投資なのか、 といった観点も考慮する必要があります。

最後に、産学連携の活性化に加えて、“官”からも制度上、予算上の支援をうけることで、産官学のポジティブな連携が成立し、日本発のがん免疫療法の創出、 医薬品における貿易赤字の削減、ドラッグ・ラグの解消につながる成果が得られることが期待されます。

【玉田耕治先生プロフィール】
1992年 九州大学医学部卒業。九州大学医学部泌尿器科入局
1994年 同 大学院医学博士課程入学
1998年 同 大学院修了 医学博士 取得
1998年 米国Mayo Clinic免疫学 研究員
2005年 Johns Hopkins大学医学部Assistant Professor
2007年 メリーランド州立大学医学部Associate Professor
2011年 山口大学大学院医学系研究科免疫学 教授

―なぜ、そして、どうやって―『企業から見た連携への課題』

MSD株式会社 オンコロジーサイエンスユニットディレクター 地主 将久先生【講演資料

本日は、企業の姿勢というより、私自身の見解としてお聞きください。

米国では、新薬における開発シーズは、バイオベンチャーでうみ出され、ビッグファーマに移譲されるものが多い。抗CTLA抗体、抗PD-1抗体も、元々は米国バイオベンチャーが開発。 現在ビッグファーマから出ている薬は、分子標的薬であれ、がん免疫療法であれ、バイオベンチャーで開発した割合が大きい。

日米のバイオベンチャーの違いをみると、数そのものより、事業規模にかなりの差があり、資金環境の相違により、事業モデルが異なります。 開発の段階で、フェーズTなど早期臨床試験まで、バイオベンチャーで一気に請け負う。そこで、ある程度いいデータがそろえばビッグファーマ―にライセンス・アウトして、後期臨床試験にのぞむ。ハイリスクの分野に参入し、ハイリターンを期待するわけです。多額の研究費を投じて、新薬開発に取り組めば当然リスクは高いから倒産する会社も多いが、倒産した会社数が自分の新薬チャレンジへの勲章と胸をはるケースにみられるように、会社全体の業績よりも個人の能力・貢献が社会的ポジションの獲得には優先される傾向があります。それに対して、日本は、失業自体が社会的デメリットとなる点で、個人より会社単位での視座を有する点で村社会としての気質を未だに色濃く有しています。この国民性の相異が、バイオベンチャー投資、開発プランに大きな影響を与えてきたと推察されます。そのため、日本のバイオベンチャーは、米国と比較して後追いで低リスク、研究サービスの委託などがメインとなる点が特徴です。最近は、米型の斬新な新薬開発を手掛けている企業も散見されるものの、臨床試験まではいたらない。臨床試験では、どういうアカデミアの施設で実施してもらうかを含め、ベンチャーを介しての産学連携も、新たな展開があるのではと期待するところです。

企業とアカデミアの共同研究には、さまざまなかたちがあります。
@企業スポンサーの研究インフラをアカデミア内につくる
A企業内研究所にアカデミア・ラボを置いて研究
B医師主導研究のサポートを行う(Grant, Drug-supply, Technology受託など)
Cアカデミアの研究インフラの枠組みに企業が参画する(国立がん研究センター・産学連携全国がんゲノムスクリーニング SCRUM-Japan, etc.)

@アカデミアにおける企業スポンサーの研究インフラの例は、様々なアカデミア施設にあります。また国際的な取り組みとして、 私どもの親会社米メルク社はテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターとの包括的な契約を締結し、IO(Immuno Oncology)について、 コラボレーションの施設をつくっています。一流の研究者、臨床家、スタッフがセットになり、医師主導の臨床研究が行われる。このように、 産学連携に関わるインフラつくりに取り組み、成功している研究機関とのコラボレーションに関しては企業同士の争奪になります。メルク社では、 様々なビッグファーマとも連携し治験を推進するとともに、NCCがスポンサーとなり実施されているCTEP(Cancer Therapy Evaluation Program) などの枠組みを活用した医師主導治験にも積極的に参加するなど、産学連携に関する新たなスタイルの創出について体系的につくっています。日本の場合、 基礎研究者と臨床家のつながりを欧米の主要施設と同等なレベルにまで形成できるかが鍵となります。免疫療法においても、基礎研究者同士、様々な大学、 施設間を通した実のあるネットワークをどこまで構築できるかというアカデミア側の問題と、企業がそういう働きがけをできるか。日本でも、このような意識が必要と思われます。

A企業内研究所におけるアカデミアのラボの例としては、武田製薬のCIRA(Center for iPS Research and Application)があげられます。 ご存じのとおり京大・山中先生のiPS関連創薬に関する研究ラボを、武田研究所に総説して産学連携を推進する試みです。これは従来の企業ラボのアカデミア内設置型と逆に、 アカデミア・ラボの企業内設置により、より効率的な研究開発を進めていこうという新たな試みです。

B医師主導研究のサポートで障壁となるのは、高額な研究資金のねん出をどうするかが課題となります。また後程話題になりますが、医師主導臨床研究の指針変更により、 更に厳しい状況となることが予想されます。基礎研究、TR研究のサポート、先ほどの玉田先生のお話のリバースTR研究の支援など、高額のバジェットが必要となる状況です。 一方、企業としても無限に資金を拠出できるわけではありません。メルク社では、医師主導研究プログラムに対し前年に比べ、5倍ほど支援のお金は増えているが、サポートの申請数は10倍ほど増加し、 より競争がし烈です。以上より、たとえ日本の医師主導治験提案から優れたコンセプトを採用することで、今後の産学連携につながる成果をおさめようという取り組みに関しても、 コンセプトが採用されてもバジェットの関係から支援が行き渡らない状況も今後は想定されます。日本では、AMED(日本医療開発機構)かの予算獲得により、 産学連携を推進する方向性になると考えられるが、その採択率には厳しいものがあります。

CSCRUM-Japanプロジェクトは、患者さんのゲノム情報を国立がんセンターとそのネットワークで解析し、現在13〜14社が参加している企業がアライアンスを形成し、 治験の際にその情報を活用するものです。ただし、欧米でもゲノムDBを対象とした産学連携のコンソーシウムの取り組みが進んでおり、今後は免疫療法の面で、 日本でもいかにオリジナリティーのある取り組みを産学連携のフレームワークを形作できるか、課題といえます。

臨床研究に関する環境の変化として、昨今の残念な事例もあり、倫理指針の見直しがすすんでいます。2015年から薬機法が改定され、 GMP(Good Manufacturing Practice)準拠に基づいた客観性の高い臨床試験を目標に、新たな規定が整備され、さらに質の高い臨床研究のできる病院の必要性を感じます。 このような変化の中で、外資もどのようにサポートすべきか考える時期にきています。たとえばメルク社全体では、オンコロジー領域で今年はすでに2,500件の申請があり、 採択率は32%。日本ではけっこう高い採択率をあげており、日本のアカデミアのレベルの高さがうかがえます。 臨床的にいかなるニーズがあるか理解いただいている先生方からの申請が多いことが特色です。今後も日本からの提案をどんどん受け入れていきたいと思います。

医師主導臨床試験というと、以前の委託寄付金などのタイプは最近減っています。申請を受ける場合、当社では、2人の査読者、MDの割合も多く、 レベルの高いレビュアーによって、2 step evaluationを行い、最終的には、日本で申請を受けたものでも、米国のReview Committeeで採択を決める。客観性、公平性を担保する方向に進んでいます。

先ほどの倫理指針の改訂では、医師主導臨床研究の施行にあたっても欧米と同様にGMPに従うことが必須となりました。とりわけ大きな変化としては、 モニタリング監査が必須になったことがあげられるかと思います。今後はARO(Academic Research Organization)の機能を併せ持つ臨床研究の中核病院がより求められ、 病院の中にも企業と同じような治験体制が必要となるわけですが、これには人件費など多大なコストがかかります。医師主導の臨床試験には、厳しい時代がきているともいえます。 今後の産学連携における企業サイドの課題として、AROはもちろん、それ以外にもより広い臨床研究案を精査するために、その質の担保や実行可能性を判断することが重要となります。 またこのような課題に対応するために、アカデミアサイドも1施設単位の基礎-臨床の連携のみならず、いろいろな施設のネットワーク形成が求められる時代が来ています。

産学共同研究で解決すべき課題として、スピード感をもってコラボする体制を整えること。ネットワーク化という面では、産業側の協力体制はもちろんですが、 アカデミア間の協力体制づくりが大切であると思います。そのフレームワークとして、免疫療法の分野でも基礎、臨床が一体となった体制つくりが、 今後の産学連携の基盤つくりという点では重要と考えられます。この枠組みの中で、症例が集積し、企業がうまく解析して、アカデミアといかにシェアするか。 有害事象のパターンを見るのは、アカデミアの得意なところでもあり、副作用一つとっても、産学連携のかたちが見えてきます。ガイダンスの作成では、 例えば免疫療法に関しては、免疫学的有害事象のガイダンスについても重要です。

日本発のシーズや研究を促進しようという取り組みは、内資系・外資系企業で区分されるものではないと思います。日本には創薬シーズにつながる秀逸な研究成果が多く、 欧米系企業についてもシースの判断については国別でなく、その質が優先されます。その創薬シーズが秀逸な場合、我々も労務はいとわず、本社担当者への交渉を行っています。

本講演に際しては、チェックポイント阻害剤に関わる産学連携に関する事例を中心に準備しました。先の影山先生、玉田先生の内容と重複する部分もあり、 詳しくは、講演資料をご覧ください。

【地主将久先生プロフィール】
2004年大阪大学大学院医学系研究科卒業。ダナ・ファーバー癌研究所にてがんワクチン、MDX-010 (Ipilimumab)の奏功機序に関するバイオマーカー研究に従事 2007年東大医科研先端医療研究所 ・助教を経て2009年北海道大学遺伝子病制御研究所・准教授
2015年よりMSD(株)・オンコロジーサイエンスユニット部長。現在抗PD-1抗体(Pembrolizumab)の開発、学術全般に携わる。

以上

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