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事務局ニュース【NO.2015-144】

第10回 理事会・総会のご報告
シーズを少しでも早くベッドサイドへ〜人と情報のプラットフォームづくりに向けて〜

5月28日、東京神田・学士会館で、第10回理事会ののち第10回総会が、出席者21名(委任状提出者56名)のもと開かれました。 宮野悟理事が司会をつとめ、武藤徹一郎理事長が議長に選任され、2014年度の活動報告などにつづき、2015年度の活動方針・予算案が承認されました。 設立から9年目をむかえた2014年度は、さらに加速度を増したTR周辺の社会状況の変化において、TR事業の出口戦略に軸足をさだめ、 模索しながら、産官学の総合的な人と情報のプラットフォームを提供することに軸足をさだめ、新しい情報とともに新しい人々も取り込んでいけるような発展的エンジンとなるべく、活動してまいりました。 2015年3月1日には、2014年度の集大成として、第8回シンポジウム「がん−みんなでつくる予防と医療−」を学士会館で開催しました。

10年目を迎える本年度は、「人と情報」のプラットフォーム形成に更なる重点を置きます。 「目的意識を明確に共有したコミュニティ」や「交流することそのものを目的としたコミュニティ」など、様々な目的・狙い・スタイルのコミュニティや活動を同時多発的に仕掛けていきます。 そして、いろいろな方向から「シーズを少しでも早くベッドサイドに届ける」ことを念頭に活動してまいります。 こうした考え方の下、これまで橋渡し研究、漢方医学、医療とお金、医療のまちづくり、海外との連携、等の具体的な課題で「重点課題等検討委員会」内に組織化されていた各サブコミッティ活動を、 それぞれ独立した活動として位置づけ、組織を全体としてフラットな形に再編成しました。これまでのそれぞれの独自性や主体性を受け継ぎながら、 さまざまな活動が分散同時多発的な動きが新たな、時に予期しない成果をもたらすことをねらっております。 そのためには、「仲間」を増やすことも重要であり、近年やや手薄になっていた新しい研究者の呼び込みにも注力してまいります。

理事会では、創立の年より、当機構の舵取りにあたってこられた武藤徹一郎前理事長が勇退されることになりました。 私どもの活動に深い理解をいただき、おかげさまで創立10年という節目を迎えることができまして、心より感謝しております。

総会の後、新しく理事長に就かれた珠玖洋先生により講演が行われました。

変わり始めたがん免疫療法―日本の立ち位置と開発戦略のリセット―

珠玖洋先生 (三重大学大学院医学系研究科遺伝子・免疫細胞治療学・教授, 健康医療開発機構・理事 )

明日から、シカゴで開かれるASCO(米国がん治療学会議 5月29日〜6月2日)には3万人以上の参加者が見込まれますが、 がんの免疫治療が話題の中核です。基礎的な研究を加味したAACR(米国がん学会)でも近年同じ傾向です。 当機構の3月のシンポジウム「がん―みんなでつくる予防と医療―」で、河上裕先生(慶応大学先端医科学研究所長)が 「新たな時代を迎えたがん免疫療法」と題しお話しくださいました。今日は、がん免疫療法開発の大きな変化と日本の立ち位置についてお話しします。

2013年、Science誌が、めったに扱わない臨床的事項にもかかわらず、“Break  through of the Year for 2013”として、 チェックポイント抗体とT細胞輸注療法を取り上げ、多くの分野の人にインパクトを与えました。2014、2015年でも同様です。

優れた臨床結果を示し、単に新しい手法が有効性を示したということだけではなく、治療のあり方を変えていくようなインパクトがあるからこそ、 外科手術、薬物治療、放射線に加え、第4の治療法として、がん治療の新しいパラダイムもできると期待されています。

がん免疫療法には、3つのアプローチがあり、攻める側の強化として、「がん(ペプチド)ワクチン」、これは単独では成功にいたらず、つぎに、 「遺伝子改変輸注療法」、こちらは成功の流れにのり、そしてがんを守る免疫抑制の解除として「免疫チェックポイン(阻害)抗体」には、 大きな成功の流れがきています。

メラノーマ(悪性黒色腫)は、日本では非常に少ないが、予後不良な病気で30年間ほど治療法に進歩はありませんでした。 免疫チェックポイント阻害剤であるPD-1抗体をつかったところ、かなりの患者さんでがんが小さくなり、しかもその状態がつづくという結果が出ました。 これは免疫療法の大きな特徴です。抗がん剤は効いてがんが小さくなるが、しばらくするとまた大きくなるということを繰り返します。 メラノーマだけでなく、日本でいえば男性の死亡原因の1位である非小細胞性肺がんなど、現状では適切な治療法のないがんに対しても有効性が見られます。

メラノーマの抗がん剤との比較では、中間評価で、2つのグループにわけて投与するのは人道的ではないとストップがでるほどその効果は歴然としており、 肺がんの治療でも、がんが小さくなって、ご存命の患者さんがいらっしゃるというすさまじいインパクトをもたらしました。 小野薬品工業が世界ではじめてメラノーマの治療薬の承認をうけています。米国では、別の会社ですが、肺がんに対する画期的なデータが出始め、 がんの患者さんに福音がもたらされることが期待され、いまは9種類ほどのがんに有効だろうと、臨床試験が進行しています。

T細胞輸注療法では、がん患者から取り出した特異的T細胞を培養してメラノーマの末期の方に輸注したら、がんが消えた。 別の肝臓に転移していた余命いくばくかの患者さんは、輸注して1か月でがんが消え、4年たっても消えたままです。T細胞輸注療法では、タカラバイオが治療薬を開発しています。

複合的に免疫療法を組み合わせることによってさらに有効性の向上が見込まれ、がんのコントロールから治癒へと大きく舵がきられた免疫療法ですが、 わが国ではさまざまな課題をかかえています。

新しい分野に参入することへの日本の製薬会社の過剰な慎重さ、限られた研究費の中でがんのペプチドワクチンが比較的安価で臨床試験まで すすめられてきたなかで、免疫療法≒ペプチドワクチンといったアカデミアの姿勢、また蓄積されてきた医療界の免疫療法に対する不信感などを克服 していかなければなりません。

このままだと、治療費から生じる利益のおそらく90%は、海外に持っていかれてしまいます。

さて、TR環境としては、近年ずいぶん前向きに変化をとげてきました。すべてのアカデミアは、TRの位置づけと重要性を認識し、 文科省、厚労省ベースでもTR拠点体制の整備がすすんでいます。公的資金の注入も増えてきました。 この4月AMED(日本医療研究開発機構)もスタートしています。

20年前は、見向きもされなかったわが国の臨床試験も、現在は国際的水準あるいはそれ以上に達してきました。ただ、やればやるほど気になるのは、 産学官そして民の連携の希薄さです。

この1月品川で、「がん免疫療法 ―略的開発とレギュレーションの調和―」というシンポジウムを開きました。 100名ほどの参加者を予想したところ、520名の方々が集まりましたが、その2/3は企業、1/3がアカデミアです。関心は盛り上がっているのに、 日本の企業については、実質2社しか開発に関わっていない。抗がん剤の開発においても、免疫療法の分野を視野に入れざるを得ず、 多くの企業でImmuno Oncologyの観点を加えて、開発戦略のリセットが必要です。

さらに、「がん免疫療法開発のガイドライン2015 期臨床試験の考え方 ―安全で効果的な開発を目指して」をまとめ、 日本で初めての免疫療法におけるガイドラインをつくりました。複雑でさまざまな開発プロトコールが用いられる中、適切な指針は欠かせません。

数ある議論の中で、アカデミアと企業の強い連携の必要性を感じています。企業としては、アカデミアが持続的に最先端を走ることこそ、 開発の多くの段階で重要です。一方、アカデミアにとって”First in Human”、人類で初めて何かをしたとの達成感は臨床系の人にとっては、 きわめて誇りある仕事ですが、最新の治療薬開発企業との連携なくしては進められません。

海外では、メガ同士の企業さえ手を結ぶ時代であるにもかかわらず、日本では必要性を認識しながらも、なかなか連携にいたらなかった。 これから我々のNPOがTRで何ができるのか。まさに、ヒューマン・ネットワークを築いて、連携への大きな支えとなっていきたいと考えております。

以上

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