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事務局ニュース【NO.2013-124】

第25回健康医療ネットワークセミナー開催報告

副作用の非常に少ない薬物療法への期待

−薬剤・核酸医薬をがんへ送り届ける高分子ナノキャリア−

講師:宮田完二郎氏(東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター臨床医工学部門・准教授)

第25回健康医療ネットワークセミナーが、1月21日、東京大学医科学研究所2号館2階大講義室で、約40名の参加者を迎え開催されました。

宮田先生は、高分子ミセルというナノキャリア技術を基に、薬剤送達システム/DDS(Drug Delivery System)の研究、さらに多様な疾患に応用できる核酸医薬の開発に携わっていらっしゃいます。

がんは、わが国では3人に1人が罹患し、2008年には30万人以上の方が亡くなる死因第1位の病気であり、新しい治療方法に期待が高まるばかりです。

高分子ミセル技術によって、抗がん剤をがん細胞に有効に送り届けることができるようになり、正常な細胞や臓器への副作用が抑えられます。 現在、5種類の高分子ミセル型抗がん剤の臨床試験が行われており、早いものは平成27年度中にも認可されるのではと期待されています。 映画『ミクロの決死圏』が公開されたのは1966年ですが、当時SFとしてファンタジーと思われていたことが、いまや現実の治療法として、その恩恵にあずかれる時代が到来しようとしているのです。

薬の特徴に合った高分子ミセルの設計、標的とする細胞を選んで薬剤を送り届ける機能、細胞内の環境に応答して自らの構造を変化させる機能を搭載することで、膵臓がんに代表される薬が届きにくい難治がん、 次第に薬が効きにくくなる耐性がんにも有効に作用するように開発されてきました。

高分子ミセルのサイズを適正に調節し、がん細胞内で選択的に薬剤を放出させるようなpH応答性を与えることで、 抗がん剤の有効性を高めることができるのです。また、腫瘍血管から腫瘍部位への移行(トランスサイトーシスと呼ばれます)を促進するリガンド分子を高分子ミセルの表層に搭載することで、 治療が非常にデリケートな脳腫瘍へも抗がん剤を送り届けることができるようになりました。

高分子ミセル技術により、正常な細胞には抗がん剤が到達しにくくなるため、がん治療の効果が向上することにくわえ、副作用を低く抑えることが可能になり、 抗がん剤治療にともなう苦しみを軽減することにもなります。

現在、第二世代のDDSとして、核酸医薬のナノキャリアが開発されています。siRNA(Small Interfering RNA)という核酸医薬をもちいて、 がん細胞に特有なメッセンジャーRNAにダメージを与えることで、通常の抗がん剤DDSよりもさらに低い副作用でのがん治療が期待されます。このような研究は、医工連携の象徴として大きく注目されています。

今回のネットワークセミナーには、一般の聴衆の方のほか、高分子ミセルをつかったDDSに高い関心をもつ方々も多く参加、熱心なQ&Aも繰り返され、関心の高さをうかがわせました。

「医薬品開発の最新動向が題材であり、たいへん参考になった」
「siRNAは、ふだん耳にすることがないので、よい機会になった」
「まったく専門外であるが、抗がん剤についてとても勉強になった。日々研究を重ね、がん治療の進展に尽力されている先生方の努力に対して敬意をはらいたい」
「高分子ミセルのサイズと間質/血管密度の関係がよく理解でき、高分子ミセルDDSの戦略がわかりやすかった」
「先端の研究をていねいにお話しいただき、わかりやすかった。siRNAの連続投与に注目したい」
「日本発の技術に期待している」

今回のテーマについては、こちらの参考資料をごらんください。

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