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事務局ニュース【NO.2013-118】

第24回健康医療ネットワークセミナー開催報告

サイエンスを正しく、楽しく
〜魅せる医学、広める医学 医学×デジタル・コンテンツ その可能性と課題〜

講師:瀬尾 拡史氏(株式会社サイアメント 代表取締役社長、医師) 飯尾 美沙氏(関東学院大学看護学部 助教)

第24回健康医療ネットワークセミナーが、7月25日、東京大学医科学研究所2号館2階大講義室で、約60名の参加者を迎え開催されました。

瀬尾氏は、東大医学部出身の医師でありながら、サイエンス・コンテンツ(医学×デジタルコンテンツ)の制作会社である株式会社サイアメントを立ち上げ、活動されています。 デジタル・コンテンツの制作は実験装置や医療器具の開発とは異なり、完成品が紙媒体やあるいはデジタルデータであることから、 制作の難しさやデザイナーの苦労を正しく評価されることがなかなかむずかしく、わが国では人材の育成も遅れをとっていますが、 米国、カナダにおいては大学院の課程として、5大学で専門家を養成する講座が置かれています。解剖学をはじめとする医学教育に加え、 イラストやCGの技術のクラスを設け、サイエンスに芸術やテクニックの要素を取り入れた授業が行われているのです。

サイエンス・コンテンツは、医療現場で応用されるだけとは限りません。法医学に基づいた鑑定書など、膨大な資料と難解な専門用語の記述は、 裁判員として召集された一般市民には容易に理解しがたく、読み込むのに時間もかかるものです。 3Dのデジタル画像で傷の深さ、凶器の臓器への進入など、角度を変えたりしながら説明すれば、専門知識をもたない裁判員の負担も軽くなり、 瀬尾氏の制作したCGは裁判に採用された実績があります。

また、厚生労働省がつくった『乳幼児揺さぶられ症候群』予防のDVDにも携わり、赤ちゃんを無理に泣きやませようと激しく揺さぶれば、 脳や目、時には命にも関わるダメージを、時間を追いながらCD映像で示しています。

さらに、『心タンポナーデ』という心臓の拍動が阻害される状態をCG化した映像は、YouTubeでは平均1日あたり70回をこえて再生され、 高い評価を得ています。

このようなコンテンツは、研究者向け、一般人向け、子ども向けなど、常に受け手を頭におき、さらに画像の正確性のみにとらわれずに、 音響や全体的デザインにも配慮し、完成度を高めていくことが必要です。一般的な理科教材としての可能性も見逃しがたく、 実際ハーバード大学が制作した“バイオビジョン”は広く公開され、誰にでも手の届く教材映像として受け入れられています。

わが国では、サイエンス・コンテンツの有用性を理解しながらも、誰が費用負担するかという段階になると行き詰まり、 なかなか採用されにくいというのが現状であると言わざるをえません。裁判員制度下においても、その後CGの採用は見送られています。 しかしながら、時間をかけてしっかり制作されたコンテンツは計り知れないほどの力を持ち、単にサイエンスの理解に役立つだけでなく、 新たな共同研究のきっかけになることもあれば、患者さんやその家族が病気についてきちんと納得し、安心感を得ることもでき、また、 完成度の高い作品があれば、子どもたちが未来の研究者を志すきっかけにも繋がっていくでしょう。

瀬尾氏は東京大学総長賞、総長大賞を受賞し、TBS『夢の扉+』では、最年少ドリームメーカーとして紹介されていますが、 日本発のコンテンツをもって世界に打って出ようという、サイアメント社の成長ともども注目していきたい存在です。

セミナーでは、デジタル画像を臨床現場で使いながら、eラーニングとして実践されている飯尾氏のレクチャーが引き続きおこなわれました。 主として小児気管支喘息の患者さんやその親御さんたちに向け、テイラー化して、病気を楽しく学びながら理解してもらおうと、 タッチパネル式のCGが利用されています。8~9割の子どもや保護者の方たちから、とてもよかった、よかったという評価が得られています。 子ども向けに、病気を説明したコンテンツというものがなかなかなく、自分の病気を子どもなりにどう理解してもらうかというのは、 大きな課題であるといえます。  

セミナー終了後の関心は高く、熱気をうかがわせるものでした。

「国産の医学、生物学のデジタル教材の少なさは異常であり、医療CGの今後に大きな期待をもっている」
「潜在的にも大きな需要があるのに供給が間に合わない日本での現状は歯がゆいが、まったく新しい分野であるだけに、可能性はひじょうに大きい」
「イメージ(画像)をもとにしたデザインで社会を変えていくことができる時代になった」
「利用者が費用負担しないとビジネスとして展開するのは難しいとは思うが、教育に対する評価や取組みが欠如している日本の問題点がよくわかった。がんばってほしい」
「とてもエキサイティングな内容であった。介護の現場でも、スタッフの教育や研修のためにぜひ力を借りたいと思う」
「案件ごとに、目的や見る人のことをしっかり考えていることは、すばらしい」
「エンターテイメント性の高いコンテンツが少ないのは、残念だ。これからの拡がりに期待したい」
「非常に内容の濃いセミナーだった。神戸から駆け付けた甲斐があった」
「テイラー化されたeラーニングは、よい取組みだ。今後に注目している」
「『喘息患者支援プロジェクト』は、子どものみならず高齢者にも必要な取組みなので、応用されるよう願っている」

今後とも、健康医療全般をとらえ、皆さんに新しいトピックスを提供できるようなネットワークセミナーを企画していく考えです。 どうぞよろしくお願いいたします。