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事務局ニュース【NO.2012-117】

2013年度第1回GDHDパーティ開催報告

ヒトゲノム解読から10年、黒船来航から160年 日本では夢物語、米国では明日の問題

キー・プレゼンテーション: 宮野 悟先生(東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター・教授、健康医療開発機構機構・理事) 【講演資料】

通算7回目となる2013度第1回GDHD『然の出会いは必然の出会い(Guzenno Deaiwa Hitsuzenno Deai)7月3(水)、研究者、医療、メディア、企業また学生など広いバックグラウンドから、80名を超える方々が集まり、今回も学士会館で開催されました。  いつも同じ場所、同じ料理、いつ来ても同じ安心感。何度でも参加して、会話を楽しんでいただきたい。この思いが通じたのか、回を追うごとに繰り返し参加してくださる方々が増えてきています。若手の研究者の皆さんもさらに参加していただけるように、工夫を重ねてまいります。 いつも同じ場所、同じ料理、いつ来ても同じ安心感。何度でも参加して、会話を楽しんでいただきたい。 この思いが通じたのか、回を追うごとに繰り返し参加してくださる方々が増えてきています。若手の研究者の皆さんもさらに参加していただけるように、工夫を重ねてまいります。  

今回はキー・プレゼンテーションの宮野先生が急用で到着が遅れられるハプニングがあり、土屋了介先生(公益税団法人・がん研究会理事、当機構・理事)に急遽プレゼンテーションをお願いしました。

日本の医療体制の崩壊や国民皆保険を理由に日本医師会が反対を表明しているTPP。我が国以上に保険制度の保護の厚いカナダやニュージーランドが、TPPに参加する立場を取っていることからも、日本の問題点を冷静に判断していくことが肝要である。また、医師会の、医療機関への株式会社参入反対の姿勢については、利益配当などを規制した上で、無駄を省き、経営の合理化を目指すマインドが現在の病院経営についてのぞまれる。さらに、健康診断の必要性において、現在肺がんの発見についてレントゲンが使われているが、1cm以上のがんしか見つからず、これをCTで撮影すれば多少の費用はかかるものの、初期の小さながんでも見つかるようになり、ほとんど治療可能となりうる。そして、国立大学病院での通常の人件費枠外となっている教授の報酬が、病院としての経営の実態を分かりにくくしており、公平な評価が求められるなどなど、多面的に議論していく必要性を説かれました。

宮野悟先生(東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター・教授、当機構・理事)は、年ごとに加速しているDNA情報解析の実情と展望についてプレゼンテーションされました。

半導体チップでDNAを読む革新的なシークエンサーの実用化により、2013年には誰もが自分の全DNA情報を10万円で丸ごと手にいれられることが確実で、 数年のうちには、1万円ゲノムの技術も実用化される。これまで主として生物や病気の『研究』(研究費という少額のお金の空間)のために行っていたシークエンスに対し、 がんや患者さんの全DNA情報をシークエンスし、臨床的に翻訳・解釈し、治療として『患者さんに戻す』臨床シークエンス(医療費という巨大なお金の空間)の時代が到来した。シークエ ンスとは、シークエンサーという装置で、A, T, C, Gの文字で綴られる生命の設計図が書かれたDNA情報(ヒトの場合30億文字の情報)をコンピュータで読めるように取り出すことである。

最近米国の女優アンジェリーナ・ジョリーさんが、BRCA1という遺伝子に変異が見つかり、乳がんの発症リスクが高くなるため、乳腺をとり再構築されたことは、大きな話題となった。実際、お母様やおば様も乳がんを発症されている。この染色体17番BRCA1、遺伝子の文字列としては約8万文字の領域にわたっており、東京医科歯科大学の三木義男先生が1994年に、乳がんと卵巣がんとの関係を見つけられたが、日本人は女性の17、8人に1人、アメリカでは7,8人に1人が乳がんに直面するという高い割合が出ている。

さて、自分のDNAデータをシークエンスできる、パーソナル・ゲノムの時代に入ってきたが、米国ではNIH(国立保健機構)のF.コリンズ所長が音頭をとり、NIH、民間、医師会を挙げて個別化ゲノム医療の実施体制を大変な勢いで整えている。大規模な計算リソース、ストレージ、データ解析など次々に手を打っている。Caucasian中心のデータ集積から、エスニックなデータも国際連携して集めていこうとしている。ミネソタ州Mayoクリニックでは、5年以内に10万人の全ゲノム情報をとり、電子カルテとリンクさせ、データ解析のための専用コンピュータ棟も建築中であり、さらにシカゴ大学では、『100万人のゲノムが医療を変える』というメッセージを発信させ、実行に移そうとしている。

東京大学の医科学研究所でも、主にがん、ウィルス感染病の方を対象に、全DNA解析、メッセンジャーRNAを解析する設備を整備してきた。ライフサイエンスの分野としては、最大規模、年間経費10億円のスパコンがあり、データの蓄積、解析する人材養成、カウンセリングの態勢も2001年以来整えており、このパイプラインを走らせて、がんやウィルス感染症の個別化医療を医科研で実現していきたいと強く望んでいる。概算要求として教育研究費で、昨年は東大では2番目の順位で要求したものの通らず、今年は3番目として提出するが、お金はないものの、私たちはやる覚悟だ。

1853年黒船が来航し、1953年DNAの二重螺旋が発見され、2003年ヒトゲノムが解析されて10年。いまやクリニカル・シークエンスという新しい医療の形ができ、シークエンスに基づく予防も視界に入っている。治療の前に「あなたのがんのゲノムを調べますか」 調べた結果あなたにぴったり合った薬があってよかったというストーリーをつくっていきたい。こういった未来はとっくに始まっている。ドラスティックに変化している世界の中で夢物語に終わらせてはいけないと思う。

【次回のスケジュール】  

●第2回10月22日(火) キー・プレゼンテーション 合原一幸先生 東大生産技術研究所教授

●第3回2014年2月18日(火) キー・プレゼンテーション 永井良三先生 自治医科大学学長

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