トップページに戻る | 一覧に戻る

事務局ニュース【NO.2012-106】

2012年度第2回GDHDパーティ開催報告

5回目をむかえた2012年度第1回GDHD。「偶然の出会いは必然の出会い(Guzenno Deaiwa Hitsuzenno Deai)」が10月22日(月)、研究者、医療、メディア、企業など様々な分野から、80名を超える方々が集まり、今回も学士会館で開催されました。 いつも同じ場所、同じ料理、いつ来ても同じ安心感。何度でも参加して、会話を楽しんでいただきたい。そして、一番来ていただきたいのは、若手研究者の皆さん。健康医療開発機構の目的はTR(Translational Research)です。分野のちがう人たちがどこかで出会ってみる。人の輪が広がって、友達が友達をよび、回を追うごとに参加者がふえています。多彩な方々との新しい出会いの場をこれからも提供していきたいと考えています。

【次回のスケジュール】  

●第3回 2013年2月18日(月)

ショート・プレゼンテーション 真田弘美先生 東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻 老年看護学/創傷看護学分野 教授

キー・プレゼンテーション 『分化と統合』(抄録)

土屋了介先生 (健康医療開発機構・理事 公益財団法人がん研究会・理事)

 私は2年半前まで築地の国立がんセンターで院長をやっておりました。定年まで1年あったところ、独立行政法人になったその当日に辞令をお返しして、がん研に移りましたが、たいへん自由であるけれども、自由すぎて心配なところもあった。 公益法人になりたいというので、内閣府などといろいろ折衝をして、昨年4月に公益財団法人になった次第です。

がん研を紹介すると、以前内閣府で規制改革会議の議長だった日本郵船会長の草刈隆郎現相談役を理事長に迎え、常務理事も医者ではありません。 日本郵船の副社長だった石田忠正さんを招いて、経営改革を行い、まともな企業体になりつつある。なるほど企業というのはこういうふうに運営するのか、病院もこういう形で経営すればよくなる病院がたくさんあるのではないかと、勉強になっています。

さて、私を前から知っている人は『分化と統合』なんておよそ私から出てくる言葉ではないと思われるでしょう。これはなぜかというのをお話ししていきたい。 その前にこの写真の女性をご存じの方は挙手してください。おひとりですね。名前はBENIさん。沖縄出身です。これでおわかりになった方がふえて大体10人です。 私もつい先日まで存じませんでした。10月4日に秋田で『美力アップセミナー』がありましたが、メインは『がん検診啓発セミナー』で、AFLACと共同で、全国各地で検診を受けましょうと開催しています。 ご存じのように、乳がん、子宮がんは早いときからチェックしないと意味がない。子宮頚がんにいたっては20代から検診していただきたい。乳がんも40代から。 ところがこういう企画を新聞で募集すると、60代、70代のおじいちゃん、おばあちゃんばかりいらっしゃる。正直いって手遅れなんですね。検診は、小学校、中学校から認識して、中学生、高校生にセミナーにきてほしい。 せめて大学生にきていただきたいというので秋田大学で開催しました。会場は若い女性で立錐の余地もないほどうまった。なぜか。BENIさんのお蔭です。 AFLACの若い広報の方と共同通信の若い方が、BENIさん呼ぼうと企画会議で名前を出したら、じいさん、ばあさんは全然わからない。広報部長も知らない。 土屋先生どうしましょうというので、老いては子に従え、若い人がいいって言ってるのだからと、企画を進めてもらったら、大正解です。開場を待ちきれずにどっときた。 講義では後ろからうまるのに、前からうまった。それが、最初はおひとり、せいぜい10人足らずの人しかBENIさんを知らない。今日集まった世界とは別の世界が動いているということの象徴でしょう。 医療格差が叫ばれて久しいけれど、情報の格差はもっと恐ろしい。地域による、世代による、職種、男女、情報源、手段、その他諸々の要素で全く別の世界がある。 インターネットとDVDとiPodだけで生きている人がいっぱいいる。我々の世代の主な情報源はテレビだけど、その世界に彼女はほとんど出ていない。別の世界で大きな動きがある、そういうふうに我々は認識しないといけないというのが前段です。

『分化と統合』ということを、医学というより医療そのもので考える必要があります。社会保障全体でもこの視点が欠かせません。臨床医療で最も大切なことは個々の患者さんの診療。 診断して治療計画をたて、治していく。これほど偉大なプロジェクトはない。意外と医者はならされて、論文を書くプロジェクトの方が偉大だと思い始めることに最初の間違いがある。 それと、今話題になっているのは、専門医なのか家庭医なのか。どっちが大事なのだ。専門医の認定機構でも問題になります。一般的に総合病院にはいろんな科がある。 総合内科という科までおいて、まさに統合なわけです。ところが、開業医の方は家庭医とよんでいるけれど、町を歩くと看板はそう出ていないのです。家庭医なんて看板は東京都内探してもほとんどない。 皆無といっていい。内科、小児科、一体どっちが専門なのか。アメリカではいわゆるオフィス。オフィスと称して、机ひとつで開業できると言われている。イギリスでも外来に行くと机が一つあるだけ。 検査は別の検査室でします。開業医のオフィスは家庭医だということで、なんでも対応するということになっています。 日本では、それぞれ専門の診療科です。どうしてだろうか。日本では、大学を卒業すると今は臨床研修2年間やって、大学病院勤務をして、以前は甲種と乙種に分かれていて、大学院4年間以内に博士号を取ると、甲種合格。 文科省と厚労省に進んだときに給料が2号俸高く始まる。それ以外には国家公務員上の違いはない。多くの人間は、出張病院に行って、大学病院に戻ってきたら、論文を書いて教授に取り入って論文博士として乙種の博士号をもらえる。 こちらは、就職しても国家公務員になっても給料は変わらない。御礼奉公に関連病院で働いて、医長さんになって、部長さんになる。大学教授の道はたいがい大学を離れるとその時点でないに等しい。 勤めていた病院の近くで、きわめて専門性の高い人が開業することが多くなるわけです。家庭医というのは、アメリカでは明確な制度がありますけれど、日本ではそういう教育のシステムがほとんどない。ごく一部福島とかにあるだけです。 専門性の非常に高いところで、専門医ばかり出てくる。通常は4割から5割は家庭医がしめないといけないのに、日本ではそうならない。すると、あるところでドロップアウトした形で開業医になるとか、 きわめて専門性が高いというと格好いいんですが、家庭医としては失格医というと、開業医の方がいらしたら、申し訳ありません。長年20年、30年やっている間に経験的にいい家庭医になっている方が、巷にあふれているといいんですが、時々いらっしゃる。そういう家庭医を探さないと、なかなか的確な診断を得られない。ですから、心配していきなり大学病院の窓口へみんなが行ってしまう、というのが日本の現状です。本来開業医である家庭医というのは、オールラウンドにトレーニングを受けないといけないのに、実は日本では受けていない。それをみなさんは感覚的に嗅ぎ取って、心配のない病気のときは開業医へ行って、心配なときは大学病院へいきなり行くというのが日本の実情です。ところが、家庭医で必要なのは、内科系、外科系、あらゆる知識です。また、家族構成、地域社会、自治体、民間保険、生活保護、死生観などをよく理解した上でないと、とてもつとまらない。トレーニングが非常に大事なのです。

したがって、『分化と統合』に結びつくのですが、内科と外科、どっちがえらいか。私は約40年外科医をしてきたのですけれど、心底内科医の方がえらい。 なぜか。診断がつかないと手術はできない。肺に影があってがんかがんではないか診断をつける。そのがんが広がっているか広がっていないか、どういう性質か、残りの肺の機能はどうか、心臓の機能はどうなのか、 全部おしなべて判断した上で、手術が適当か、手術をやめて保存にするか、双方やめて残りの人生を楽しんだ方がいいのか。その辺りの判断をするのが、いわゆる内科診断学なのです。 最近は検査結果を診るのが診断だと思っているような教育を大学がしており、困るわけです。人生そのものをあずかっているつもりで診断するという視点が必要です。外科医はいわばテクニシャンで、 職人として技術や頭は使うが、それに徹するとうまいチームが組める。一方、徹底的に専門分野にのめりこまないと先端医学は開発できない。ジャマナカくらいに言われないと、ノーベル賞は獲れない。 診断医と治療医。今申し上げたように、診断医がいないと治療が始まらない。家庭医と専門医。家庭医の神髄は診断にあります。ですから、治療機械なども持たなくてよい。それにもかかわらず、治療偏重の宣伝が多すぎる。 日本の医者が勘違いしていることに、がん治療認定医の問題があります。外科系の日本がん治療学会と日本臨床腫瘍学会という内科系の集まりがそれぞれがん専門医をつくるとして、新聞に叩かれた。 同じ名前の専門医を二つの学会がつくる。医者たちは何を考えているんだと、5,6年前騒がれました。日本医学会の高久先生に入っていただき、厚労省に立ち会ってもらって協議して落ち着いた先が、 臨床腫瘍学会の専門医は『がん薬物療法専門医』という名前、外科医中心のがん治療学会は横断的なので『がん治療認定医』という名称でいこうとになりました。アメリカではどうでしょう。 メディカル・オンコロジスト(Medical Oncologisit)がいます。内科医、腫瘍医が、がんの患者さんについてどういうプログラムを組んだらいいかと診断をつけて、治療法を総合的に考えていくのが、メディカル・オンコロジストなのです。 ところが、日本では、二種類のがん治療認定医がいる。薬物療法も治療です。薬を使うけれど外科医と同じことをする。外科でもきわめて広範な医者がいる。患者さんトータルでみようという思想が言葉に表れていない。 両者が真剣に考えて、がんの患者さんを総合的に診ていくことができるような医者をどうやって育てていこうかという姿勢が日本のがんの世界にない。悲しいことに、そういうことが言葉の世界に表れている。 アメリカでは、American Council on Graduate Medical Education(ACGME)という組織があります。政府のお金も出ており、もちろん学会の人も入っていますが、学会とは切り離されたところで、 医学生の教育を考える自主的な運営で独立した組織です。そこのFamily MedicineのProfession Descriptionは、総合健康管理であると、明確に書いてある。家庭医ですから、 内科、小児科、産科、精神科、老年科などをローテーションして教育を受けないとなれない。また、予防一次診療をメインとして働くということが家庭医として明記してある。専門分化した専門フリークが一夜づけで、 診療所を開業するようなことはできないと書いてあるのです。地域の専門家といろいろと協議し、地域の資源を活用することを理解している人が家庭医になる。さらに生物科学、行動科学、臨床学などを統合した幅広い専門家であるわけです。 先ほどから言っているようにやっつけ仕事で家庭医に転向できるということではない。時間をかけてじっくりローテーションしてあらゆる科を経験して、さらに周辺の社会学まで勉強して、医者として町にでていくことが大事なのです。 ですから、みなさん、内科にいらっしゃい。まさに内科医、腫瘍内科医、診断医、家庭医がこれに当たります。外科は外道なんですけれども、マスコミは脳外科、心臓外科は神の手だとおだてるわけです。あたかもこちらがはるかに上だと。 統合するのは内科。外科医は。もちろん最先端を切り拓いていく誇りを持たないとならないが、まかり間違ってもそちらが上だということはない。 最初に戻りますが、BENIさんを知っているようでないといけない。我々の世代の常識でやっていくと、日本はずるずると世界から遅れてしまう。統合した学問がないまま、医学が進んでいくことになりかねない。 次回からも、こちらの会においでになるときは、必ず若い人をひとり連れていらっしゃることをお願いして、プレゼンテーションを終わります。

トップページに戻る | 一覧に戻る