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事務局ニュース【NO.2011-100】

【シンポジウム「震災後1年−健康と医療の再生に向けて−」開催報告】

震災を風化させないために

東日本大震災と津波によってもたらされた厳しい状況を見つめ直し、失われた命の尊厳と非常時における人々の英知に敬意を表し、 機構の原点に立ち返ろうと第5回シンポジウム『震災後1年―健康と医療の再生に向けて―』が、3月4日、東京白金台の東京大学医科学研究所講堂で開催され、医療従事者、研究者の方々に加え、メディア、企業などからも多く参加いただき、会場は満席となりました。

第1部は、国立保健医療科学院生活環境部・主任研究官・小林健一氏の基調報告で幕をあけ、地震災害の特徴などのほか、今回の震災では、 計画停電を含む電力不足が病院運営に多くの問題をもたらしたことが挙げられました。エレベーターの使用制限、度重なる停電によるCTなどの故障、 空調の制限に伴い手術・食事の提供が制約されたことなど、今後の対策が待たれます。 自衛隊中央病院・第一内科部長・箱崎幸也氏は、10万人もの動員のあった自衛隊の震災医療活動は、人命救助から、遺体収容、生活・防災支援など多岐におよび、 SCU(ステージング・ケア・ユニット:広域搬送拠点臨時医療施設)が機能した地域とうまく機能しなかった地域があり、大型ヘリ離着陸のためのヘリポートの必要性、 さらに自衛隊員自身の心身のケアを行う態勢が不可欠であるとも指摘されました。

東北大学大学院環境科学研究科・教授・石田秀輝氏は、研究所や学生ボランティアの単位では初期段階から地域支援が整っていったものの、 大学全体としては対応に遅れが見られたことが述べられました。また、震災が引き起こしたエネルギーの不足、インフラの崩壊、 食糧の枯渇などは2030年ごろ顕在化すると想定される「地球環境問題」を先取りしたものにほかならない。このような制約の中での暮らし方を見つめ直し、 テクノロジーを活用しつつ、心豊かに生きていくべきことが求められると言及されています。

星槎グループ・会長・宮澤保夫氏からは、現地に度々赴いて具体的なニーズを把握しながら教育支援と医療支援を実践されてきた経験から、 公的機関の硬直的な支援では限界があること、形にとらわれず心を伝えられるような支援こそ今求められていると、熱いメッセージが伝わってきました。

南相馬市立総合病院・副院長・及川友好氏は、災害当初の政府規制によってドクターヘリや救急車両さえも入らない状況の中で行われた屋内退避指示区域における 医療活動の実態について紹介されています。域内では、病院運営を支える各種の民間サービスも機能不全となり、域内の5病院では、入院・外来ともに中断を余儀なくされたこと、 また、子供をもつ家庭が戻ってこないために、小児科の再開がままならないこと、深刻な看護師不足によって病床の確保が厳しいことなど、震災後1年を経過してもなお医療崩壊が進んでいることなど、現地での絶望的な状況を切り抜けてきた経緯が直接伝えられました。

第2部では、ともに民主党政策調査会副会長である参議院議員・鈴木寛氏と衆議院議員・長妻昭氏、南相馬市長・桜井勝延氏によって、 健康医療の復興と再生および今後の地域医療の方向性について、講演と討論が行われました。

南相馬市では、震災直後、1万人弱に落ち込んだ人口が、現在43,500人まで回復してきたものの、 これは、福島原発30km圏内での事業再開を黙認したことから徐々に人が戻ってきたことによるもので、当初自主避難を指示していた官邸と現場とは大きなずれがあり、 またSPEEDIなどの情報開示が遅れたため、混乱が広がったことは否めません。現在、市内で急性期の対応ができる医療施設は南相馬市立病院だけとなっていますが、 辞職する看護師の不足を補うため、市内の他の医療機関からリクルートせざるを得ないような事態を招いています。利害調整システムとしての県の機能、 そして現場からの声を聞き届けられる復興庁であってほしい。お金の裏付けがなければ、医療の再構築のプランは描くこともできず、また医療費の無料化は、 失業者が増えれば社会保険から国保に切り替わり、市の負担となり、さらに財政を圧迫することになっています。

震災対応などのルールの詳細化については、ルールを実施するための学習コストが増大し、別の事態が起きた際には、足枷となりうることもあるため、 人の判断力やコミュニケーション力を養い、脱マニュアル人間を育てていくことの方が機能するのではないか。実際、釜石の奇跡といわれた釜石市では、 避難3原則として、マニュアルに頼らない、ベストをつくす、率先的に避難をすることを実践して、大きな効果をあげました。また、緊急事態に対しては、 米国における危機管理庁のような組織があれば、強毒インフルエンザなどの対策にも適応できるのではと示唆されました。

国内の単身世帯は、いまや3割を超え、コミュニティーの崩壊は被災地にとどまらず、全国的な問題となっており、被災地の再生は、すべての国民にとって他人事ではなく、 真摯に考えなければならないということが、改めて浮き彫りにされました。

震災後1年を経て、直後とはまた異なる被災地のニーズもあります。震災を風化させないためにも、できるだけ多くの人が被災地を自分で見てきて肌で感じること、 現地入りしてボランティアに参加してみることが重要だと、報告者の方々から強く求められました。

 

【理事長挨拶】

 武藤徹一郎氏((財)がん研究会・メディカルディレクター)

【基調報告】

東日本大震災と病院の建築・設備

小林健一氏 [講演資料](国立保健医療科学院生活環境部・主任研究官)

【事例報告及び討論】

自衛隊による震災医療活動

箱崎幸也氏 [講演資料]

東北大学の被害とその後

石田秀輝氏 [講演資料]

被災地(相馬市)での医療・教育支援活動について

宮澤保夫氏[講演資料]

緊急時避難準備区域の医療崩壊と復興

及川友好氏

モデレーターの宮野悟氏(東京大学医科学研究所・教授)

【基調報告及び討論】

健康・医療の再生について

鈴木寛氏(参議院議員・民主党政策調査会副会長)

医療体制の復興と再生について

長妻昭氏(衆議院議員・民主党政策調査会副会長)

今後の地域医療の方向性について

桜井勝延氏[講演資料](南相馬市長)

モデレーターの土屋了介氏((財)がん研究会・理事)

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