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事務局ニュース【NO.2009-055】

第13回健康医療ネットワークセミナー開催報告

NPO健康医療開発機構 第13回健康医療ネットワークセミナー「がん難民救済の方策―私はこう考える」

2009年7月29日、NPO健康医療開発機構理事長 武藤徹一郎氏による講演会が開催された。武藤氏は東京大学医学部第一外科教授退官後、財団法人癌研究会附属病院(癌研)副院長、院長、そして平成20年より同病院メディカル・ディレクターに就任した。現在、メディカル・デクレクターとしての責任を持って組織を運営している武藤氏独自の考え(残念ながらスライドには載っていない)などが披露され、とても興味深い内容となった。その言葉(本音)が会場に来た聴衆にも伝わり感嘆と笑いの入り交じる場面が多く見受けられた。講演で使用したスライドを武藤氏の許可を頂き掲載しているので参考にしていただきたい。

講演の中で武藤氏から、がん難民の問題を考えるため、以下のような武藤氏独自の癌の3分類が示された。
1 どこでも治せる“がん”
2 医師・病院によって予後が違う“がん”
3 現代の医療では誰もどこでも治せない“がん”=難治癌

 この中で、およそ32万といわれている難治癌(3番目)の人達が、「がん難民」となっていることを指摘した。その理由は、専門医不足、専門病院不足、情報不足、緩和ケア不足などにより、難治癌患者の行き場が無くなった所にあるという。これは武藤氏独自の考えであるとの事だが、外科医としてがん患者と長く関わりを持ってきた氏の考えは、医療現場の現実をいいえている。そして、武藤氏は、この考えに基づきがん専門病院である癌研の副院長就任を決心したときから、「がん難民」の救済に関して考え、そして実践を開始した。

 癌研病院は、2005年に現在の有明の地に全面移転した。その際、癌研病院の運営などが武藤氏に託された。そして、癌研病院のモデルとなる施設を探し、いくつかの施設を視察した。その中で、特にアメリカ合衆国テキサス州にあるMDアンダーソンがんセンターが強く影響したという。MDアンダーソンがんセンターは、1万7千人もの従業員、その中に1400人の臨床従事者を抱える巨大病院である。その運営方法を取り入れ、癌研病院でも職員全員の意見を集め、癌研病院独自のMission、Core Value、Visionを定めそれに基づいて病院の基本方針を定めた。これこそが、「がん難民」の救済の方策であった。
癌研病院では、基本方針を定めることでスタッフの意識が高まり、具体的な方針に反映されていった。臓器別診療体制作り(スライド35参照)、集学的医療の実践(スライド36参照)など具体的な方針に反映されていった。臓器別診療体制により、難治癌に対しての新しい治療方法の研究グループを設立し、各研究者が新しい知識や技術を活用し、難治癌の克服を目指している。昔から Translational Research (TR:ティーアール) を推進する Physician Scientist である武藤氏は、その為、TR の全国ネットワークを作ることも目的として我がNPO健康医療開発機構の理事長も務めているのだと感じた。
更に、現在治療を行っている患者が安心して最善の治療を受けるために病院内に Cancer board を設立した(スライド39)。Cancer Board において多くの医師の意見を集め病気の診断や治療法を検討することで、最善の治療選択を行うことができる。そして、セカンドオピニオンにおいても、患者や患者家族に安心してオピニオンを示す事ができるようになってきた。また、癌患者の心身の痛みを和らげるべく、病-病連携、病-診連携を充実させ、患者の緩和医療への関わりをスムーズにした。

 武藤氏が癌研で始めた、Mission, Core Value, Vision、集学的医療の実践、Cancer Boardの設立などは、当時日本の医療界では斬新なアイデアであった。その頃を武藤氏が振り返ると、アメリカ合衆国テキサス州にあるMDアンダーソンがんセンターを訪問したときに転機が訪れたという。武藤氏が癌研に赴いた時、その内容を決めるための責任者も請け負った。そして、国内にはモデルにできるような病院はなく、そこで、海外の病院をお手本にしようと考えた。しかし、MDアンダーソンを訪問したときに、そのような簡単にお手本にできるようなものは無いことに気づいた。そして、自ら学び、癌研オリジナルを作ると「覚悟」を決めたという。講演中に熱く語る武藤氏を見ていると、この「覚悟」こそが今回一番伝えたかった事だと感じた。スライドには、「”やりたいことをやる” のではなく “やらねばならぬことをやる”覚悟が必要」と記されていた。この覚悟をもって、癌研の中でのリーダーシップを発揮し、院長を退任後、日本では珍しい「メディカル・ディレクター」という立場に立った。そして、多方面に視点をもうけ、癌難民の救済を開始している。これが武藤氏のまさに「やらねばならぬ覚悟」であろう。

 スライドの最後に、問題点を4つ列挙している。そして、その全てを解決するためには、「覚悟」が必要であると、語り、武藤氏の講演は終了した。

<文責:田中祐次、サブコミッティ4(臨床試験の基盤整備と患者・国民・社会との連携推進の支援)座長>

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