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アメリカ便り

その1: テキサス州ベイラー (松本先生)

皆さんこんにちは

昨年末より、テキサス州ダラス市とフォートワース市の2箇所のベイラー研究機関でDirectorとして膵島移植の仕事を続けています。 膵島移植というのは、インスリンが出ないために一日4回以上もインスリン注射が必要なタイプの糖尿病患者さんに対する新しい治療法です。

特に、インスリンが全く自分の体で作り出せないために、血糖値のコントロールがとても難しい患者胞の塊である膵島を点滴の要領で肝臓へと移植することで、インスリン産生能が復活し、血糖値のコントロールがよくなります。この治療の画期的なところは、点滴というとても体に優しい移植ながら、インスリン産生能が復活し劇的な血糖値コントロール改善が得られるところです。ただし、課題もあります。膵臓から膵島を分離精製する技術は、複雑で難しく今も発展途上で、この技術の改善が研究課題のひとつです。膵島移植は通常複数回移植を行うことで、インスリン注射がいらなくなりますが、いらない時期が長続きしない点が最初の課題です。

もうひとつの課題は、拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を飲む必要があり、免疫抑制剤の 用がすくなからずあるところです。したがって、長期にインスリン注射がいらないようにすること、免疫抑制剤の副作用をほとんどないものを開発するあるいは、免疫抑制剤がなくても大丈夫にすることが課題です。また、膵島移植の主な対象患者さんである1型糖尿病は長い 闘病歴のなか精神的に苦労されている方が多く、膵島移植という新しい医療を実施するうえで メンタルサポートも膵島移植の重要な課題です。

現在、ダラスにてBaylor Institute for Immunology Researchという免疫研究所の セクションのひとつの研究として膵島移植を行っていますが、フォートワースに Baylor All Saints Islet Cell Laboratoryという 膵島移植専門の施設を建設中です。 フォートワースの施設が完成しますと、膵島移植の独立した研究機関として移動します。 臨床および研究の膵島移植プログラムを全力で展開しています。こちらに来て、すでに2例臨床の膵島移植を実施しました。日本での膵島移植との一番の違いは、日本での膵島移植は主に心停止ドナーを利用しますが、こちらでは脳死ドナーでも膵島分離に適したものを選んで実施します。脳死ドナーからの膵島移植を通じて膵島分離技術の改善の研究を続けています。

こちらの膵島移植プログラムの大きな特徴のひとつが、大きな免疫学研究所の中にあり、免疫学的アプローチで膵島移植の成績向上を目指している点です。特に、自己免疫疾患グループや、免疫モニターチーム、など複数の免疫チームとタッグを組んでいます。免疫チームは免疫抑制剤が不要な膵島移植を目指して研究しています。 膵島移植を実施した際に、患者さんがその効果を実感しよかったと思っていただけるようにQuality of Lifeの研究も実施しています。最先端の医療が本当に患者さんに還元しているか確認することは とても重要です。

将来的に、日本での膵島移植の発展のため日本人のスタッフを増やしたいと考えています。特に、若い医師で新しい治療開拓へチャレンジしたい人は歓迎です。

松本慎一

著者プロフィール

松本 慎一
1988年  神戸大学医学部卒業
1988年〜1992年  神戸大学第一外科研修医および関連病院勤務
1992年〜1996年  神戸大学大学院外科学I
1966年 神戸大学第一外科非常勤講師
1997年 ミネソタ大学外科リサーチフェロー
1999年 ワシントン大学移植外科客員研究員
2001年 ワシントン大学移植外科臨床顧問
2002年 京都大学医学部附属病院臓器移植医療部助手
2005年  Diabetic Research Institute Kyoto, Director
2006年  藤田保健衛生大学消化器第二外科臨床教授
2006年  Diabetic Research Institute Japan, Director
専門は膵島移植
2006年  Director, Baylor All Saints Islet Cell Laboratory, Director,
Baylor Institute for Immunology Research, Islet Transplantation Laboratory

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